サウジアラムコがIPOの準備を再開:話が進まない背景

ブルームバーグなどが報じるところによれば、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが数ヶ月前に先送りしたばかりのIPOの準備を再開したことが分かった。

サウジアラムコ、超大型IPOの準備を再開-関係者(ブルームバーグ)

  • サウジアラムコは複数の投資銀行の特別チームとIPO実施時の役割を協議
  • 今年後半か来年始めに細かい作業が加速する可能性
  • 2020年か2021年がIPOの予定とされるが細かいスケジュールは未決定
  • 2兆ドルの企業評価、原油価格の変動リスク、化石燃料を扱う企業への投資の是非

補足

原油経済からの脱却を図るサウジアラビアにとって、サウジアラムコのIPOによって資金調達を行い、他のエネルギーや技術開発に投資するというのは、政府が掲げるVision 2030の一貫である。

しかし昨年のIPOが頓挫したのは、カショギ記者の暗殺によるサウジアラビア投資リスクの高まりもあるが、上記事に書かれているような問題は非常に重要である。

まず時価総額2兆ドルというのは世界最大の時価総額であるアップルの2倍の規模であるが、サウジアラムコは肝心の原油埋蔵量や石油生産能力の詳細な情報の公表を渋っている。

どれだけの資産を持っていて、どれだけの生産能力があるかというのは投資において不可欠な情報だが、それを適切な形で公表しなければ、まとまる話もまとまらない。

この背景には、2つ目の「原油価格の変動リスク」にも関係するが、サウジアラビアはOPECにて強い主導力を持っており、財政状況によって原油価格を意図的に操作しようとする傾向が多々見られる。市場価格をコントロールできる(してもお咎めが無い)のはサウジアラムコの強みではあるが、投資家にとっては不透明性は否めない。

最後の「化石燃料を扱う企業への投資の是非」というのは、最近のESG投資の流れへの逆行に対する意識である。様々な分野にESG投資の考え方が導入されようとしており、投資ファンドにおいてESG投資比率などを公表するケースも増えてきた。

そうするとファンドに組み込むことも普通より難しくなり、大きな金額を集めるためのハードルも上がってくる。

また、サルマン皇太子は「米国での訴訟リスク」を警戒しているとも言われる。

多額の資金調達には米国でのIPOは不可欠だが、現在の不透明な情報公開で仮にIPOに成功したとしても、後で内部情報が明らかになれば訴訟リスクとなるからだ。

逆に言えば、公開を渋っている情報の中に、一般的に推定される情報と大きく乖離するような事実があるのではないか、と筆者は考えてしまうがどうだろうか。

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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