国別で見れば銃保有率殺人率についての関係が多く報告される。人口密度や経済水準、民族構成など様々な要因があるにも関わらず、以下のように単純に州別の銃保有率と10万人当たり殺人件数を比べただけで相関係数は0.279もある。(World Population Review)
銃保有に関して「コンシールドキャリー」であれば凶悪犯罪を抑止する効果があるのではないかという報告が、今回紹介する米国の防犯研究センターによる論文である。
まず、銃保有に関して「オープンキャリー(open carry)」と「コンシールドキャリー(concealed carry)」がある。オープンキャリーは銃を持っていることが他者から分かるようにホルスターなどにつけて運ぶことである。コンシールドキャリーは一見では銃を持っていることが分からないように運ぶことである。
concealedは「隠して」という意味であるが、違法に隠し持つという意味ではなく、許可を受けた上で胸ポケットの中などで隠れた状態で持つことを指す。米国では州によって扱いが異なるが、concealed carryの許可証があり、許可無くコンシールドキャリーをしているのは違法である。(他にも銃弾の装填済loadedと未装填unloadedの区別もある。)
現在、米国では1,866万人の人が人がコンシールドキャリー許可証を持っており、2007年から見れば3倍以上にまで増えている。全人口にして7.3%である。
コンシールドキャリーが殺人率や凶悪犯罪率を押し下げる効果があるのではないかというのが論文から示唆される仮説の一つである。下図は橙色が「コンシールドキャリー許可証を持つ人の割合」、青色が「殺人率」を示している。
無論、これだけでコンシールドキャリーが殺人率を押し下げると言えるわけではないが、 悪人も狙いやすい人を狙うわけであり、「誰が銃を持っているか分からない状態」であれば、凶悪犯罪を行おうとする人も躊躇する可能性はある。
コンシールドキャリーが可能かについては前述の通り、州によって扱いが異なる。以下はコンシールドキャリーの扱いを州別に図示したものである。
色ごとに見れば、
- 黄緑色:憲法上認められる(許可証無くコンシールドキャリーが可能)
- 緑色:ほとんど憲法上可能(CC: Constiturional Carry)
- 青色:許可証を取りやすい(shall-issue)
- 灰色:許可証を取りにくい(may issue)
である。
現時点で16州は憲法上認められた権利としてコンシールドキャリーが位置づけられており、モンタナ州も実質的にそうである。多くはRight-to-Carryであり、州によって異なるが40-100ドル程度を支払えばコンシールドキャリー許可証を得られる。
このRight-to-Carryは通俗的にはShall-Issueと呼ばれ、希望すれば積極的に発行される。対してカリフォルニア州などのMay-Issueは非常に厳しく、警察官など特定の職種以外の人がコンシールドキャリー許可証を得るのは非常に難しいだけでなく、その金額も高い。
例えばカリフォルニア州であれば、拳銃所持のための初期コストだけで、
- 100ドル以内の発行費
- 20-40ドルの指紋採取費
- 150ドル以内の精神分析費用
- 1,000ドル以内のトレーニング費用
- 25ドル以内のライセンス付加費用
がかかり、更にコンシールドキャリー許可証に150-300ドルの手数料がかかる。
こうした州は別にして、多くの州では割とコンシールドキャリーが一般的であり、許可証を持つ人が急増しているというのが主要な結論である。
州別にコンシールドキャリー許可証を持つ人の割合を見ると、必ずしも憲法上認められているかどうかが保有率を決定づけるわけではないようである。但し、規制が厳しいカリフォルニア州などでは2%未満となっている。
その他の主要な発見としては、
- 白人より非白人の方が急速にコンシールドキャリー許可証を持つ人が増えている
- 男性より女性の方が急速にコンシールドキャリー許可証を持つ人が増えている
- 銃乱射事件などの直後はConcealed CarryのGoogle検索件数が伸びる
などがある。
参考文献[1]: Lott, John R., Concealed Carry Permit Holders Across the United States: 2019 (September 27, 2019)
参考文献[2]:World Population Review