中国から台湾への個人旅行停止の主目的は圧力ではない

昨日から中国大陸から台湾への個人旅行を当面の間停止することが発表されている。その狙いについて日本経済新聞は、

2020年1月の台湾総統選をにらみ、「一つの中国」原則を認めずに米国と軍事的なつながりを強める蔡英文政権に圧力をかける狙いがあるとみられる。

日本経済新聞「中国、台湾への個人旅行を当面停止 蔡政権に圧力」2019年7月31日

と台湾の独立派である蔡英文政権への圧力だと報じている。

圧力も目的の一つではあるが二の次であり、重要な目的が他に2つある。

  • 選挙が近い民主主義国家への個人旅行許可を抑制
  • 経常収支赤字の低減

中国は台湾に限らず、民主主義国家での選挙期間中を中心に、当該国への個人旅行を抑制する傾向がある。それはひとえに「民主主義に感化されないようにする」ためである。

中国共産党政権が最も恐れているのは人口問題でも米国の圧力でもなく「内乱」である。政権に不利な情報が流通するのを防ぐためにあれだけ情報統制をしているのも内部からの崩壊を恐れるからだ。

規制が緩和されたとは言え、中国でも比較的裕福な人しか海外旅行はできない。そうした人が民主主義国家の選挙運動に触れることを恐れていると考えられる。

もう一つ重要なのが経常収支赤字である。中国は輸出大国であるが、2018年から経常収支赤字の傾向が続いている。

経常収支は、貿易収支・サービス収支・所得収支・経常移転収支で構成されるが、貿易収支は一貫して黒字だが、サービス収支は赤字傾向が続いている。

中国のサービス収支の中で特に重要な割合を占めているのが旅行収支である。多くの人が海外旅行に行くというのは輸入と同じであり、「爆買い」は輸入そのものとも言える。

内乱を回避するために中国が特に気にするのがやはり「経済成長」であるが、それに影響しそうな指標の悪化を恐れている。中国の場合、旅行収支が指標全体に大きな影響を与えるレベルで存在しており、「台湾への圧力」というのは都合のいい口実である。

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