インドの保護主義とバラッサ・サミュエルソン効果

インドの高い経済成長に伴い、輸出入ともに増加していき、GDPに占める輸出比率も上昇してきた。しかし、モディ政権では保護主義的な姿勢が目立ち、近年は貿易赤字比率は減少したものの、同様に輸出の伸びも鈍化して、輸出比率も低下している。

インドの貿易赤字比率と輸出比率
出典:UNCTAD及びIMF統計より筆者作成

しかし、世界銀行のHasn Timmer氏は、南アジアの輸出の低迷を指摘した上で、バラッサ・サミュエルソン効果から考えれば、自由貿易を進めるべきだと主張する。

参考:The World Bank, “What’s behind South Asia’s low exports?”, 7 Apr 2019

経済学にバックグラウンドがあればバラッサ・サミュエルソン効果には馴染み深いと思うが、そうでない人のために簡単に説明する。

まず、貿易財と非貿易財が存在するとする。前者はテレビや自動車など工業製品など資本集約的な財で、後者は散髪など労働集約的なサービスなどを指す。この時、国際競争によって貿易財のみに一物一価の法則が成立すると仮定する。(他にも完全競争、資本移動の自由など様々な仮定があるが、大雑把な理解ならこれで十分である。)

この時、先進国と発展途上国で生産性を比べると、非貿易財よりも貿易財の差の方が遥かに大きい。例えば、散髪にかかる時間があまり変わらないのに対し、伝統的な手工業とオートメーション化された工場の生産性が大きく異なるのを考えれば分かる。

発展途上国では貿易財の生産性が低いので相対的に賃金が低いが、生産性が上がれば生産量が増えて賃金が上昇し、非貿易財の相対価格も上昇する。これにより、生産性上昇率が高い発展途上国の実質為替レートが急速に増価するというのがバラッサ・サミュエルソン効果である。

結局、インドのような国で先進国にキャッチアップするにはいかにして貿易財の生産性を上昇させるかであり、市場を開放して競争圧力をもたらすことで経済を効率化することである。外国の競争相手や消費者との相互作用が起これば、結果的に知識移転も起こり、生産性上昇にも寄与する。だから市場を開放するのが良い、というのが Timmer氏の主張である。

しかし、近年の南アジアの経済成長は貿易財部門ではなく、主に非貿易財部門によって牽引されてきたとTimmer氏は主張する。諸外国との比較研究によれば、南アジアは潜在的に可能な分の1/3程度しか輸出されておらず、非貿易財頼みでは成長に限界があるとのことだ。

インドの長期的な成長にはバラッサ・サミュエルソン効果が働くような経済システムの確立が不可欠であり、モディ政権のような保護主義は悪手というのが暗に見られる主張である。間もなく4月11より総選挙が始まるが、与野党の選挙動向がまだまだ見逃せないだろう。

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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