Huawei(ファーウェイ)の従業員持株制度のからくり

Huaweiは公式サイトで「従業員持株制度」を強調している。事業会社であるHuawei Investment & Holdingの99%近くを従業員が保有しているという。

これについて、ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネススクールのデイビッド・ドゥ・クレメール教授は、その意味合いについて次のように述べている。

従業員の献身が企業の競争力を高めるという考えは、容易に理解できる。しかし実際に献身を促し、それを従業員に受け入れてもらうことは難題である。その1つの方法としてファーウェイは、業績インセンティブ制度を活用している。同社は株式公開企業ではなく、その所有者は実質的に従業員たちだ。任正非が株式の約1.4%を保有し、8万2471人の従業員が残りを保有する(2014年度アニュアル・レポートによる)。


この従業員持株制度は、ファーウェイ社内で「銀の手錠」と言われている。これは俗に「金の手錠」と呼ばれ、優秀な社員を金銭でつなぎ留めるための一般的なストック・オプション制度とは異なる。根本にあるのは、責任と恩恵の両方をともに働く人々と分かち合いたいという任正非の想いだ。全員にリーダーとして行動してほしいのだと彼は言う。ただし重要なのは、優れた働きを見せるものだけが参加を許されるということだ。


ファーウェイでは、IPO(新規株式公開)をすればほんの一握りが大儲けし、大多数はモチベーションを失う結果になるという共通認識がある。株式公開せずに現行の持株制度を守ることは、強固な団結心と士気の維持につながるのだと任正非は強調する。

ハーバード・ビジネス・レビュー

しかし、これに異を唱えるのが最近公開されたクリストファー・ボールド氏とドナルド・C・クラーク氏による論文”Who Owns Huawei?”(誰がHuaweiを所有しているのか?)である。

この論文では、Huaweiは「従業員保有」という名で多くの国で(ちょうど上記の引用文のような内容で) 説明されているが、それは誤解を招くものだという。

確かに、企業構造的にはHuaweiの事業会社のうち、創業者である任正非(レン・ツェンフィ)の株式保有率が約1%、残り約99%は労働組合委員会であり、労働組合が従業員による組合と考えれば、「従業員保有」というキャッチフレーズは正しいように見える。

しかし、論文では労働組合委員会の内部統治手続き(委員会メンバーやリーダーの選任プロセス等)が不明である上、組合員は労働組合の保有資産に対する権利を持たないという。

「従業員株式」と呼ばれているものの実態はせいぜい、利益分配スキームにおける契約で定められた利益に過ぎず、議決権などは無いという。

また、一般的な中国企業の労働組合の公的性格を考えれば、労働組合が99%保有という実態が正しければ、それは事実上の「国有企業」であると指摘されている。

一般に、Huaweiは非上場会社を貫き(上場しているのは一部のグループ会社のみ)、従業員持株制度によって独自の進化を遂げていると言われるが、その内実はほぼ国有企業というのがこの論文の明快な内容である。

2019年12月27日追記

ファーウェイが中国政府から最大750億ドルもの支援を受けていたことが報じられた。上記のような事実上の国有企業という性質から見れば、特段驚くべきことではないが、その内実が広く報道されることは社会的に良いことであろう。

参考文献

ハーバード・ビジネス・レビュー「最強の未公開企業・ファーウェイを成長させる4つの理念」2015年10月9日

TechCrunch Japan「ファーウェイが中国政府から多大な支援を受けて成功したことが報じられる」2019年12月27日

Balding, Christopher and Clarke, Donald C., Who Owns Huawei? (April 17, 2019). 

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