何故データサイエンスの事業化は失敗しやすいのか

データサイエンスなり機械学習なりと言われる分野の研究成果を事業化するという試みは多く行われている。研究成果が出る前に大抵は多くのコストがかかるが、実際にそれを製品やサービスにロールアウトした時に、それが上手くいくケースは少なく、大部分は失敗すると言われる。

インシュアテック(保険+テック)の新興企業Clearcoverのデータサイエンス責任者ザック・エルンスト氏は、過去の経験や観察から、どういう企業のデータサイエンスの事業への「変換」が上手くいくのかについての考えをまとめている。

エルンスト氏によれば、技術が高度であることより文化の方が大事だという。ここでの企業文化は「意思決定者が科学的であること」を指す。

典型的なビジネス上の意思決定においては、専門家などとオープンな議論を重ねつつ、リスクやリターンについて検討した上で、意思決定者は“measure twice, cut once”アプローチを取るという。「念には念を」とも訳されるが、直訳して「2回計測し、1つ捨てる」ということからも分かるように、2つの主要な方法を検証して良い方を採用するということだ。

参考文献:Venture Beat, “If your data science rollout is failing, this may be why”, 19 Jul 2020

しかし、エルンスト氏はこの“measure twice, cut once”アプローチは良くないという。成功するベンチャー企業や優れた科学者は「多くの仮説を生成して迅速にテストする」アプローチを採用するという。

但し表面的には「意思決定者が科学的アプローチを採用する」ことが重要ということになるが、この実現には多くの変革が伴うという。例えば、マーケティングにおいて複数のペルソナ(顧客像)を設定して戦略を練る場合、適切にABテストを繰り返すプロセスができていなければ、いくら多数の仮説を迅速にテストしたいと考えていても実践できないからだ。

よく「データサイエンティストがビジネスの事を知る必要がある」と言われるが、エルンスト氏はそれだけでは不十分で、ビジネスチーム自体が「サイエンス」の考え方を採用し、それを実践できる状態でなければ、データサイエンティストも十分にその科学的アプローチを実践することができず失敗しやすいという。

筆者はこの論考を読んでまさしくその通りだと思ったが、補足すれば“measure twice, cut once”アプローチが良くないのは、そもそも結論ありきになりやすいという問題がある。

設定する仮説が2つだと、どうしても意思決定者が採用したい「本筋」が存在し、そちらが選ばれやすいような仮説が暗黙的に選択される可能性が捨象できない。これが3つになっても同じであり、おとり商品戦略を仮説自体に採用してしまうことも有り得る。

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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