SaaSの「死の谷」を超える(下)

SaaSスタートアップの殆どが年間100万ドルの売上高も達成できない。売上を上げる為にはサービスにある種の没個性化が必要で、それに伴い競争相手が増えれば「死の谷」に陥りやすいという構造があるというのが前回の内容だ。

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死の谷への兆候に早めに気づき、対処しなければならない。それはSaaSの経営者にとっても投資家にとっても同様の話である。

Costanoa Venturesの代表であるJohn Cowgill氏は、その為に重要な概念が総売上高解約率(Gross Anual Revenue Churn Rates)である。新しい顧客が多く入ってきて売上高自体は伸びていても、解約が多く顧客の入れ替わりが多いようであれば、明らかに死の谷に向かっている。

Churnは「顧客がサービスを解約すること」を意味するが、原義は「撹拌」である。かき混ぜるように顧客が競合製品の間でサービスを移動していく様を指している。総売上高解約率が伸びていくと、それだけ競合製品が増えているということを意味する。

総売上高解約率を危険視しなければならない水準は売上高によって異なる。下記はその目安をまとめたものである。

総売上高解約率の目安
出典:Venture Beats

ACV(Annual Contract Value:年間発注額)ベースで3分類されており、Enterprise(10万ドル以上)、Mid-Market(1-10万ドル)、SMB(1万ドル未満)である。

総売上高解約率の目安は四分位数で分けてあり、許容範囲としてMedianがあり、それ以下の四分位が理想的(Best in class)、それ以上の四分位(Bottom quartile)が許容範囲外である。

この数値に問題があるようであれば適切なコホート分析が必要になるとCowgill氏は述べる。解約された顧客の属性は勿論、できる限り顧客から解約の理由を聞き出すことが重要になる。(具体的なコホート分析については引用元を参照してもらいたい。)

参考文献:Venture Beats, “A practical guide to understanding and reducing SaaS churn”, 12 May 2019

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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