SaaSの「死の谷」を超える(上)

Salesforceは20年で1,000億ドル以上の価値を持ち、直接上場を控えたSlackは創業わずか6年で70億ドルもの価値があると言われる。米国ではベンチャーキャピタルによってSaaS(サース)企業の急成長が可能になっているが、その96%は100万ドルの収益も実現できない。

下図のようにSaaS企業には「死の谷(Valley of Death)」と呼ばれるものが存在する。100万ドル($1 million)未満の収益しか得られない企業が96%、1,000万ドル($10 million)以上の収益を得られる企業はわずか0.4%しか存在しない。そして、売上高の段階が次のステージに到達する時に「死の谷」に阻まれて成長できない傾向があるのだ。

SaaS企業の「死の谷」
出典:Venture Beats

これはSaaSの特徴を考えれば容易である。SaaSは導入コストが安い一方でカスタマイズ自由度が低い。ユーザーが多少のアレンジを加えることができるが、基本的にはサービスの完成品を利用するわけである。

そうすると、収益が増えれば増えるほど「より特徴の無いサービス」を目指していかなければならない。特徴が無いと言うと表現が悪いが、より多くの企業にとって「平均的に求められるサービス」を実現しないとマスは狙えないということだ。

最初はニッチで独自性の高いSaaSを提供していたとしても、顧客を増やそうと思えば、どうしても没個性的なサービスへと転換していくことになる。これはカスタマイズ性を犠牲にした上での簡易性を追求するSaaSの宿命である。そうすると自ずと競争相手が増え、「死の谷」にはまりやすくなる。

OpenViewの2018年の調査によると、企業は採用するSaaSの比較検討会社が2013年の平均2社に対して、平均9社に増えている。つまり、ある分野のサービスにおいて平均8社の競合企業が存在するということで、それだけ競争が熾烈ということだ。

こうした市場の特性上、後発になればなるほど成長が厳しくなるということだ。成長によって別の製品と競合してしまった場合、知名度や安定性などからどうしても先行者の方が有利になる。少なくとも100万ドルの壁を超えるには「ある特定の市場で最初か遅くとも二番目のスタートアップである必要がある」と言われている。

1,000万ドルや5,000万ドルの壁を超えるには、また別の力が必要である。5,000万ドルなら複雑な機能を実装する開発力や製品ポートフォリオなどである。しかし、こうした段階に達せない(100万ドルの売上に満たない)SaaS企業が96%であるということをまず認識しておかなければならないだろう。

続き:SaaSの「死の谷」を超える(下)

参考文献:Venture Beats, “Getting to $50 million: How to avoid the SaaS Valley of Death”, 30 Mar 2019

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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