なぜ企業はAIを巧く活用できないのか

カナダのソフトウェア会社Flybitsの創業者であるHossein Rahnama氏が、企業が人工知能を最大限に活用できない理由についてコラムを書いている。

Rahnama氏は、多くの大企業がAIを開発もしくは利用するためのリソースに対する投資を先行させているが、現実的で実用的な戦略が欠如しているケースが多い事を指摘している。(そして結果として、ユースケースやアプリケーションを深く考慮せずに効果なツールやアプリケーションを購入してしまう事になる。)

人工知能を最大限に活用するための戦略の設計には以下の3点を十分に検討することが重要だとしている。

  1. アプリケーションが特定のニーズを満たしているか
  2. マイクロサービスの理解
  3. 優れたAIベンダーの選別

アプリケーションが特定のニーズを満たしているか

1は、成功するAI戦略はニッチなものであり、既存のシステムのどの分野で恩恵を受ける可能性があるかを特定しなければならないことを言っている。例としては、IBM Watsonを利用した銀行における「マネーロンダリングの誤検知の検出」が挙げられている。

補足すると、事業全体で役立つような大きな事をやろうとすると、大抵は「学習が上手くいくかが分からない」のであり、大企業が発注するレベルの大規模システムで主流のウォーターフォール型の開発工程に合わない。アジャイル型もよく言われるが、大規模システムではなかなか実行が難しい。

無論、事業全体で役立つような大きな事で実現性が高いことは、恐らく実現しても大した利益にならないだろう。

機械学習の工程として、多くの場合はタスクを細かく分けて順に学習させていく「機械学習パイプライン」が主流である。例えば、画像中の文字認識なら、

  1. 文字の場所の特定
  2. 文字の切り分け
  3. 文字認識
  4. 辞書との単語マッチング

など、複数の工程に分けるのだ。4の部分は、3で「app1e」となった場合、4文字目が数字なのは不自然であり、尤もらしい「apple」を出力するといったものだ。

最近は入力から直接出力を一気に行うend to end学習も流行しているが、かなりのデータ量が必要であり、大きな事をやろうとすると結果的にコストがかかるので、近道は無い。

故に、現実的なコストと実現性があり、かつ、リスクとリターンが見合ったものとなると、自ずとニッチな分野になるというわけだ。その為には、既存のシステムを細分化して考え、どの部分をAIで埋め合わせられるかの検討が必要である。

マイクロサービスの理解

これは、「既存のシステムに統合する事を前提としてAIサービスを探してはならない」ということである。既存システムにそのまま取り込める事を前提すれば、選択肢は狭まってしまう。

結果としてAIサービスを業務に統合できるようにAPIを提供するようなマイクロサービスを熟知する事が必要であると指摘されている。

優れたAIベンダーの選別

これは原文では「ツールはデータサイエンティストではなく、本物のAIでなければならない」と書かれている。

優れたAIベンダーは「試用期間や会社のデータベースへのアクセスを必要とせずとも、データによる価値を証明できる」と述べている。

これは、データを正規化したものを提供し、生データを渡さなくても適切な学習を行って価値をもたらせるというものである。実データへのアクセスや長い調査期間を要求してきた場合は真のAIベンダーではなく単なるデータコンサルタントだと指摘している。

実際、セキュリティなどの問題で生データを渡せないケースは多い。そういった場合、データを0~1に正規化した上で項目名を隠すといった処理をしてベンダーに渡すことになる。

無論、データの本質は変わっていないわけで、それだけで結果をもたらせるのが真のAIだという主張である。

この場合、結果が上手くいった場合に「なぜ上手くいくのか」という説明が困難になるので、それはそれで別の問題が生じるが、現実的には記事で言う「真のベンダーでなければ依頼が難しい」というのが正しい理解だろう。

参考文献

Entrepreneur, “Why Businesses Keep Failing to Make the Most of AI”, 31 May 2019

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

HAL の記事一覧 SlofiAのtwitterアカウント@slofia_finance