イスラム金融における2つの住宅ローンスキーム

英国のチャレンジャーバンク(注1)について紹介するウェブメディアSpecialist Bankingに、ゲートハウス銀行(Gatehouse Bank)が2018年12月に開始したシャーリア準拠の住宅ローンである住宅購入計画(Home Purchasing Plan; HPP)についての記事が掲載されていた。

同行の最高商務責任者(CCO)ポール・ハウスウェル氏が解説したもので、HPPはイスラム・非イスラムを問わず、英国人だけでなく外国人や駐在員による住宅購入者も対象としている。競争的ながら倫理的な方法で住宅を購入したい消費者の人気が高まっているようである。

記事でもイスラム金融における住宅ローンと言える2つの代表的なスキームについて解説されているが、あまり分かりやすい説明とは言い難い。解説として分かりやすいのは北村・吉田(2008)『現代のイスラム金融』(日経BP)であるので、これを参考に2つのスキームを整理する。

参考: 北村・吉田(2008)『現代のイスラム金融』(日経BP)

ディミニッシング・ムシャラカ(Diminishing Musharakah)

収穫逓減(diminishing returns)などと言うように、ディミニッシングは「逓減」や減少を意味する。「逓減するムシャラカ」という意味だが、ムシャラカとは何か。

ムシャラカ(Musharakah)は従来型金融(conventional finance)における共同出資に該当するスキームである。出資比率に応じて損益を分配するものであり、イスラム金融においては広く合弁事業などで使われる。ムシャラカは「パートナーシップ」の意味に近い。

このムシャラカを住宅ローンに応用したのがディミニッシング・ムシャラカ(Diminishing Musharakah)である。

仕組みとしては、借り手と銀行が対象となる住宅に共同出資し、借り手はそこで暮らす。この時、借り手は一部しか所有していないにも関わらず住宅を専有していると考え、銀行の持ち分に当たる「使用料」を支払うと共に、銀行の「出資分」を買い取っていく。直接「利子(リバ)」を取ることができないので、金利に当たる部分を「使用料」とし、元本分については出資比率を増やしていくことで支払う。そうすると時間経過によって銀行の出資比率が「逓減」していく。

例えば1億円の不動産に対し、頭金として5,000万円を支払い、残りをディミニッシング・ムシャラカ(住宅ローン)とする場合、初期の出資比率は50:50である。

仮に5%固定金利で10年で返済するとすれば、以下のように毎年500万円ずつ出資していき、銀行側の持ち分の5%を使用料として支払う形になる。少しずつ借り手の出資比率が増えていき、10年後には完全に所有権が移転することになる。(以下は、北村・吉田(2008: 74)を元に、数値例や項目名を変更して整理したものである。)

イジャラ・ワ・イクティナ(Ijarah wa Iqtina)

もう一つのスキームがイジャラ(Ijarah)を元にしたイジャラ・ワ・イクティナ(Ijarah wa Iqtina)である。

イジャラは従来型金融におけるリースに該当する。物品を顧客に受け渡した後も所有権は全て販売者側にあり、使用料を払うのがイジャラである。

イジャラ・ワ・イクティナの場合、リース期間終了後に所有権が顧客が移転するものを言う。これも取引が終了するまで不動産を賃貸している扱いであり、買い手は家賃を払い続ける。この家賃に元本に加え利子に該当する分が上乗せされており、実質的に住宅ローン金利の役割を果たす。期間が終了すれば買い手に完全に所有権が移転する。

ディミニッシング・ムシャラカが少しずつ所有権が移転していくのに対し、イジャラ・ワ・イクティナの場合はリース期間が終了するまでは完全に売り手に所有権がある。

従来型金融における所有権移転ファイナンス・リース取引とほぼ同じスキームと考えて不都合は無いので、これについては例示は要らないだろう。このスキームについては個人向けの住宅ローンだけでなく、法人の資産購入などにも使われている。

参考文献

[1]Specialist Banking, “A guide to how sharia-compliant mortgages work”, 9 Oct 2019

[2] 北村・吉田(2008)『現代のイスラム金融』(日経BP)

注1)チャレンジャーバンクは、英国のいわゆるビッグ4(バークレイズ、HSBC、ロイズ・バンキング・グループ、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)によるサービスが十分な分野や地域に特化してサービスを提供する小規模なリテール銀行を意味する。

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