Brexitの3つのメリット:政治的・経済的自由

オーストリア経済学と自由主義政治経済学の立場で言論をおこなているMises WireでJose Nino氏により”The Benefits of Brexit”(ブレグジットの利点)という論考が出された。Brexit(ブレグジット)のデメリットやリスクについては散々各所で論じられているが、肯定的な立場で論じるのは推進派が唱える「移民問題」などの個別の論点以外で包括的に論じられるケースは珍しい。挙げられている3つのメリットは以下の通りである。

  1. 欧州の政治権力の分権化
  2. 自由を認めない価値観からの脱出
  3. 自由貿易の増加

1. 欧州の政治権力の分権化

EUは元々第二次世界大戦の勃発に大きな影響を与えた1930年代の貿易戦争の反省を踏まえた関税同盟がルーツだが、現在はヨーロッパで成功した連邦主義を急速に放棄し、「ブリュッセル(EU本部の所在地)の中央集権的な政治的・経済的・金融的超大国」にまで置き換えるまでに肥大化した。英国の離脱は欧州の権力の分散を引き起こすというのが第一のメリットだ。

EUから離脱して「国家主権を取り戻す」ということは、経済的に成功するための近道ではない上、暫くは混乱も大きいだろう。しかし、以下の英国の離脱派議員のダニエル・ハンナン氏の言葉は印象的である。

自由には失敗する自由が含まれます。我々はシンガポールにもベネズエラにもその中間にもなれますが、それが我々の決断なのです。これは選挙人として大きな責任です。世論に影響されない役人が選択すべき事を教えてくれる国よりも、人々が間違いを犯す自由がある国に住む方が良いのです。

2. 自由を認めない価値観からの脱出

こうした中央集権的なEUの体制は、言論の自由にまで及ぶようになりつつあり、歴史的に連邦制・言論の自由・財産権など古典的なリベラルの発祥地である英国がそこから逃避する上でメリットは大きいというのが第二の内容だ。

言論の自由の抑圧に対する過去の例では以下のようなものが挙げられている。

  • イスラム教預言者のムハンマドを小児性愛者と呼ぶジョークに対して女性がオーストリアで罰金刑を受けた(2011年)
  • ポール・ウェストン氏が選挙演説でウィンストン・チャーチルの著書『The River War』(湖畔の戦争)から、イスラム教徒が宗教心から盲目的に兵士になるという旨の内容を引用したことで英国で逮捕された(2014年)

例示されているものはイスラム教絡みが多く、移民問題などとも繋がっていると思われるが、経済的にもより重要なのは、先日2019年2月13日に合意されたEU著作権法の改正「デジタル単一市場における著作権に関する指令」である。欧州議会での決議は3月もしくは4月であるが、そのうち11条と13条は大きく問題視されている。

11条はいわゆるリンク税と呼ばれるもので、「単一の語句」もしくは「ごく短い引用」以上に引用してURLを紹介することに対してライセンス料を求めるというものだ。基本的にはGoogleニュースなどが標的だが、EUだけでなく世界中のウェブサイトが対象となる。

更に問題なのは13条で、「3年以上存続するか年額1000万1ユーロ以上の収益を上げているプラットフォームあるいはサービスは、一瞬でもユーザーが著作権侵害コンテンツを投稿しないようサービスを管理する責任を課される」(cnet)という旨の内容がある。また、音楽・画像・動画など著作権のある素材については自動的にフィルタリングをすることを義務付けており、現実的にそのようなフィルタリングを完全に行うことは不可能であるという見方が多く、EUのウェブサイトには一切関わらないのが最善という意見もある。

リンクを貼って引用するだけでライセンス料ということになると、記事で言うように言論の自由が脅かされる可能性は非常に高いだろう。また、それだけでなくEUの情報を外部に伝える事が抑制されれば、経済活動・投資活動にも大きな影響が出ると予想される。

3. 自由貿易の増加

Brexitが英国の貿易に大きな支障をもたらすという意見は多いが、実態はそうでもないというのが第三のメリットである。以下は、英国の輸出のうち、EU域内国とEU域外国への輸出比率の推移を示したものである。見ての通り過去20年間、EU域外への輸出比率は少しずつ増えており、EUでの貿易依存度は下がり続けているのが実態である。

英国の輸出比率(EU域内国と域外国)の推移
出典:Mises Wire

EUの経済成長率は他の地域の経済成長率よりも低く、EUの中で貿易を囲い込むよりも、他の国との自由貿易協定を進めていく余地があり、それがうまくいくかどうかは別として「選択の自由がある」というのが一連の議論である。

参考文献

Mises Wire, “The Benefits of Brexit”

cnet「EUの新著作権指令はインターネットを破壊する」

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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