オンライン教育の生産性

筆者は機械学習などIT関連の技術や一般知識について大勢の前で話す機会が多い。今年は新型コロナウイルス対策により、その場がビデオ会議を利用したものになっている。単純に講義を行うだけなら受講者の反応が分かりにくい以外は特に変わりはないが、質問対応など双方向的なやり取りになると状況は大きく変わってくる。

オンライン教育の「生産性」をどう定義するかは難しい問題だが、ここでは「受講者のスキルがどれだけ伸びるか」を想定している。受講者が心理的に「分かった気になって満足すること」を価値とする講習会も存在するが、筆者はそうしたものを目指していない。

最終的にどれだけスキルが伸びたかについては実践的なテストなどで判断できるが、講義中などの説明が伝わったかについての確認が難しい。

まず質問を受け付けるが、通常の場合に比べて質問が出にくい。受講者にとってもビデオ会議での参加は他の受講者の様子がわかりにくく、質問しづらいのだろう。そして、質問が出ても「平均よりやや下」くらいの受講者の質問が多い。

例年なら「レベルの高い受講者の高度な質問」「どうしようもないレベルの受講生の質問」「雑学を披露しなければならないようなちょっとした質問」など多様な質問が出る。対面での講習と違ってスムーズに進まないことも背景にあるだろうが、明らかに質問に特徴がある。

ランダムに受講者を指名して質問を促すこともできるが、上でも下でも平均から大きく乖離している受講者は講習中には質問はあまりしない傾向にある。これもある種の「空気」を読んでいるのだと思える。

平均的なレベルを想定した講習を行い、平均的なレベルを上げるという目的においてはこれで十分だろうが、講習の目的はそれだけではない。落ちこぼれを拾い上げる事を重視するものもあれば、逆にトップクラスを更に引き上げる事を重視するものもある。その全てが求められる場合もある。

あらゆるレベルの受講者のスキルを高める事を目的とする場合、効率的に各レベルの水準を把握しなければならないが、どうしてもオンライン教育だとそこに限界があるように思える。世の中のパッケージ化されたオンライン教育が、あるレベル層(どちらかと言えば低め)に特化しているのは、それが一番実施しやすいからではなかろうかとも思える。

尤も、オンライン教育を最初から前提としてカリキュラムを組み、それを実施すればまた結果は異なるのだろう。しかし、今筆者が関わっているのは対面での講習を前提としたカリキュラムであり、それを無理やりオンラインで行っているのだ。「講義」というサービスは一見すればオンラインで成立するように見えて、それは喋っている時だけの話であり、それ以外の細かい部分で著しく生産性が落ちてしまう。

今の世の中において、従来は対面で行われていた各教育サービスがオンラインで行わざるをえない状態になっているが、単に話し手がオンラインで繋がれば良いというだけではないというのは筆者にとって新しい発見である。

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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