マーケティング戦略としてのハラール化粧品

イスラム教におけるハラールとは意味的には「許可」であり、通例的には食品において食べて良いか(ハラール)良くないか(ハラーム)の枠組みで話される。

イスラム教の成立において豚肉や死肉、酒が禁止されるのは「伝染病に感染しないように死肉を回避」したり「砂漠で喉が乾いたからと言って水の代わりに酒を飲んではいけない」といった「集団が生きるための知恵」が元となる。

故に、美容のために身体につける化粧品は想定されていないため、中東諸国でも元々はハラール化粧品という概念は存在しなかった。

しかし、厳密に考えれば僅かながら化粧品の成分が体内に吸収(経皮吸収)されるので、飲食物と同様にハラールであるかの判断基準が必要という考え方が生まれた。化粧品では動物性の成分が使われることも多い。

一方で、ハラール化粧品というのは概念としては比較的新しく、国際的に統一された基準は無い。

大川(2014)によると、2014年時点でハラール化粧品の基準が存在するのはマレーシアとブルネイ・ダルサラームだけである。

いずれも東南アジアから中東諸国など他のイスラム教国に「ハラール化粧品を売り込む」という形である。

しかし、湾岸諸国でのハラール化粧品の成長率は著しいものの、そのシェアはまだまだ低い。大川(2017)も2016年のオマーンの調査でハラール化粧品の認知度は低く、購入者にも遭遇しなかったと報告されている。

最近はインドなどでもマレーシアのハラール化粧品の需要が増加傾向にあり、イスラム教徒だけでなく、非イスラム教徒にも「健康的な安全な製品」というイメージとして需要が増えているという。

というのも、マレーシアが定めるハラール化粧品の定義は、従来のハラール食品などの定義よりも広く厳しい条件を定めているからだ。

この辺りの事情や市場成長については少し古いレポートだがジェトロがまとめている。これより、ハラール食品およびパーソナルケア用品の条件を引用する。(日本貿易振興機構, 2012:156)

  • 人間の身体の一部またはそれに由来する成分を包含または含有していない。
  • イスラム法によりイスラム教徒が使用または摂取することを禁じられている動物、またはイスラム法に従って食肉処理されていないハラル動物に由来する肉体の一部または物質を包含または含有していない。
  • イスラム法により「不浄(najs)」と定められている材料または遺伝子組み換え作物(GMO)を含有していない。
  • イスラム法による不浄な(najs)ものに汚染されていない設備機器を使用して調合・調理、加工、製造、または貯蔵していない。
  • 調合・調理、加工または製造中に、a)項、b)項、c)項またはd)項に明記する要件を満たしていない材料と接触しておらず、物理的に隔離されている。
  • 消費者や使用者に害を与えない。
  • 尿、胎盤、糞便、血液、嘔吐物、膿のように、人間または動物の身体の開口部から排出された液体および物体。
    注記:人間、および犬と豚以外の動物の乳、精子、卵子は不浄(najs)ではない。
  • 死肉・腐肉、またはイスラム教に従って食肉処理されていない動物。

これらを見る限り、イスラム教における不浄の概念に入らないような遺伝子組み換え作物を含有しないといった規則がある。

他にも不浄なものを含む加工ラインをハラール製造ラインに切り替える際の洗浄の条件(水や土など)や、包装の要件、加工現場や作業衣服などの清潔さの条件など、イスラム教以外の様々な観点で基準が定められており、健康志向の消費者が気にしそうな要件が多数設定されている。

実際、化粧品において不可欠なアルコールについては、「アルコール飲料以外のアルコールを含む化粧品およびパーソナルケア用品の原料」は許容されるなど、製品の性質上やむを得ずアルコールを認める形となっている。

最後の点を見れば無理があるように見えるが、それは元々は無かった概念をマーケティングの発想で作られた基準だからである。

参考文献[1]:日本貿易振興機構「マレーシアにおける化粧品および美容関連商品の市場調査」2012年3月

参考文献[2]:大川真由子. “ムスリム女性の 「美」 と消費─ 中東におけるハラール化粧品の可能性─.” コスメトロジー研究報告 25 (2017): 126-129.

参考文献[3]:Bernama, “Malaysia’s halal cosmetics, personal care products in high demand in India”, 1 Sep 2019

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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