イスラム金融は「サウジアラビア経済の鍵」なのか

先日、サウジアラビア通貨庁(Saudi Arabian Monetary Authority : SAMA)が主催するリヤド・ワークショップ(Riyadh workshop)で、イスラム金融が国家経済の刺激として果たす役割が強調された。

第2回となる今回のワークショップには30以上の企業や団体などが参加し、中小企業の資金調達の場としてサウジアラビア政府がイスラム金融業界で果たす重要な役割にフォーカスが当てられた。

ワークショップでは4つの基調講演が開催され、それぞれ、

  • イスラム金融業界におけるSAMAの役割
  • 王国のVision 2030に従った持続可能な開発とイスラム経済における競争的な役割
  • イスラム金融業界への付加価値と重要セクターの資金調達における役割の必要性
  • イスラム金融業界のサービスへの意識を高める上での研究教育機関の役割

について議論が行われた。

確かに、サウジアラビアではイスラム金融が成長しており、今後も伸びていくと思われる。しかし、中東ではカタールやバーレーンなどがイスラム金融においては進んでいるが、サウジアラビアは遅れを取っているという実態もある。

遅れを取る背景には、豊富な原油産出を理由として、サウジアラビアには早くから欧米諸国からの資金が多く流入し、「従来型の銀行(conventional bank)」が多く進出していたことが挙げられる。

「イスラム金融」という概念は比較的新しく、経済的な独立と宗教的なアイデンティティの強化の一貫として広まってきた考え方であるが、その頃にはサウジアラビアでは欧米式の金融システムが普及していたわけであり、今更「利子を禁止する」とは言えなかったという実態がある。

その間に中東でイスラム金融を力を入れてきたのがカタールやバーレーンといった国であり、外資流入が遅かった事が、こうした国にとっては結果的にメリットとして働いている。

無論、サウジアラビアは今後もイスラム金融に力を入れていくという事には変わりは無いが、イスラム金融の大きな問題点として「マネーロンダリングに対する(従来型銀行に対する)相対的な脆弱性」が高いという事が問題である。

これはまず、新しい分野であるイスラム金融のマネーロンダリング対策技術が不十分だということがある。次に、そもそも「利子を取らない」為に不動産など多くの物品を介するので、構造的にマネーロンダリングが発生しやすいという問題もあるからだ。

もし「サウジアラビア経済の鍵」になるとすれば、欧米とは無関係にイスラム経済だけで発展するという閉鎖的なプロセスである。将来的にイスラム教徒は世界最大の勢力になるのは間違いないと言われており、独自の経済システムを発達させる可能性も当然有り得る。

参考文献:Arab News, “Islamic finance ‘key to Saudi Arabia’s economy’”, 27 May 2019

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