カナダのロイヤル・ローズ大学のオンライン教育研究者であるジョージ・ヴェレツィアノス教授は、The Conversationで優れたオンラインコースが満たす要素について論考を書いている。新型コロナウイルスによるオンライン教育の普及によって「対面教育とオンライン教育のパフォーマンスの違い」というのは着目されるが、同氏によると、この問題は1950年代からの古いテーマである。
The Conversation, “The 7 elements of a good online course”, 11 Jun 2020
先行研究では、大学教育では対面教育とオンライン教育で学業成績のパフォーマンスに大きな差が無いということが分かっている。以下で紹介する「優れたオンライン講座の7条件」は同氏が指摘するように、オンライン教育だけでなくそのまま「優れた教育講座の7条件」でもある。
1. 公平であり公正であること
大人数に対して教育を行う以上、公平であることは重要だ。これは受講生に対する対応として公平であるだけでなく、経済的な状況や社会的な状況も配慮した公平性が求められる。そのためには高価な教材を利用するのではなく、オープンソース化されている教育リソースを利用できることも重要である。
また、現代においては文化的政治的に公正であることも重要だ。偏見に満ちていたり、人を傷つけるような内容の教材を利用することは問題になり、こうした配慮も求められる。
2. 双方向的であること
一方的な講義ではなく、講師と受講生、受講生同士がインタラクティブにやり取りできるようなカリキュラムが良いという話だ。個別にサポートしたり、受講生同士でディスカッションを行ったりと、単なる受け身ではないコースだ。
これも当然、オンラインに限らず効果的な教育カリキュラムであると言われるものだ。但し、その運用についてはオンライン教育ではかなり工夫が必要で、これについては筆者も苦労している。
3. 魅力的で挑戦的であること
学生の興味を引き出し、スキルを高める上でやりがいのある教育カリキュラムであるということだ。理想的ではあるが、これを実現するのは非常に大変なことではある。これ以上は補足することは特に無い。
4. 実践が含まれること
「2. 双方向的であること」とも関連するが、単に見たり読んだりするだけでなく、実際の作業が含まれることである。特に重要なのは「やり直し」と「応用」があることだという。
「やり直し」は一度課題を実践するだけでなく、それについてフィードバックを行い、別の課題を実践するということである。その上で「応用」的な課題に挑戦する機会もあれば、実践的であるし教育としても効果的であるという。
5. 教育効果が高いこと
いくら形式的に優れたカリキュラムであっても教育効果が無ければ意味が無い。これは、実際に受講生のスキルを高められるだけでなく、その効果を計測できる仕組みも持っている事も重要である。
6. 積極的な講師がいること
優れた教育カリキュラムがあっても、最終的にカリキュラムを実施するのは人間である。講師を担当する人間が積極的でなければ教育効果も上がらない。単に教えるだけでなく受講生に対して配慮や共感ができ、親しみやすいことが重要だ。
7. 学生の自律性を促進できること
最後に、優れた教育コースは、一方的にカリキュラムの内容を与えるだけでなく、受講生が自ら新しい学習内容を探して取り組めるような環境になっていることである。会計学についての講座なら、講師が用意した会社ではなく、受講生自らテーマを決めて分析を行ったりするのが考えられる。場合によっては講師と受講生が共同してコース内容を設計するようなものも良いという。
これらは当たり前の事を言っているようで、それを兼ね備えるのは難しいので、既存の教育コースについてチェックリスト替わりにして検討してみるのも良いだろう。筆者も実際にチェックしてみて、それも記事として公開しようと考えている。