「記憶」から見た勉強と仕事の違い

「仕事と勉強に求められる能力は異なる」という言説には筆者も異論は無い。しかし、その理由についてよく言われる「仕事には答えが無いからだ」という答えは乱暴だと考えている。

仕事にだって答えはある。但し、その答えが一つとは限らない(無いかもしれない)し、採点者(上司)が最善解を知っているとも限らないし、次善解の方が高く評価されるかもしれない。そして場合によってはアウトプットしても採点すらされないこともある。営業のように市場が直接的に評価する仕事もあるが、その全ての成果が実力というわけでもない。

そう聞くと何とも報われないように思うかもしれないが、ここではそういう話をしたいわけではない。仕事と勉強で求められる能力の違いについて書きたいわけだ。

記憶の観点で見れば、短期記憶と長期記憶に分けられる。短期記憶が一時的なワーキングメモリであり、それを継続的に記憶しようとする作業が「暗記」である。勉強においては、どちらかと言えば長期記憶が求められる。

極論すれば、大学受験であれば高校入学から3年弱の期限あり、入試の結果で決まる。高校で赤点を取らないように一定の成績を残す必要はあるが、良くも悪くも大学受験は一発勝負であり、準備期間は長い。短期記憶より長期記憶の方が重要である。

そして実際の試験を見れば、大抵は「一問一答」である。センター試験の国語や英語のように一文で複数の穴埋めがあったり、二次試験の数学のように大問が幾つかあり計算過程から書くといった違いはある。しかし、ある答案用紙に対して求められている答えは一つ、一対一対応しているのである。

仕事で求められる能力は異なる。同時に複数のタスクが割り当てられることは当たり前だし、その期限はまちまちだし、一般に大学受験のように長くない。短い時間で並行的に複数の作業を進行させていく能力が求められる。状況を判断して優先順位を付けて取り組み、答えが複数あるかもしれない問題も何らかの答えを一つ選んで出さなければならない。

この状況判断能力は、どちらかと言えば短期記憶能力に左右される。複数のタスクが同時に割り当てられれば、それを効率的に分類して優先順位を決めなければならないからだ。同時に一つの事だけに取り組むのではないので、短期間で情報をインプットして整理する必要がある。

メモに書き出しても良いが、効率的にメモを書き出すには読解力が必要である。短期記憶能力と読解力には関係性があると言われる。短期記憶能力に優れていればメモを取る必要は無いが、短期記憶能力に自信が無いならメモが必要だ。しかし、重要な事だけを即座に判断してメモを取るには読解力(この場合は読むのではなく聞いて意味を抽出する能力)が必要である。

無論、仕事の経験を積み重ねていくと、似たパターンの経験を活かすことができる。この経験は長期記憶になっているだろうが、仕事を始めた段階だと、どうしても短期記憶能力が重要になってくる。慣れない段階でも多くの仕事が割当てられ、更にどうでもいい会議も割り込んでくるし、情報の取捨選択が必要となる。

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金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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