「バブルは二度弾ける」という教訓で、現在は2回に分けて崩壊するバブルの1回目の局面であることを示した。反発を期待する投資家は少なからず存在するし、緩和策などで一時的に反発する事もあるだろう。市場に安心感が漂った時、何らかの引き金で完全に市場は崩壊すると考えられる。では、その引き金は何になるだろうか。
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有望なのは原油価格下落から始まるジャンク債市場やレバレッジドローン市場の崩壊に伴う金融危機である。
以前に書いたように、OPEC+の原油減産交渉決裂により、ロシアや米国に対してサウジアラビアがシェアを増やすために逆に増産する対応をしている。ロシア政府の想定原油価格や米国シェールガス企業の損益分岐点より低い原油価格を維持すれば、両者に大きな影響を与える。ロシアからの譲歩を得られるかもしれないし、シェールガス企業の事業が存続できなければサウジアラビアのシェアは高まる。
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問題は米国のシェールガス企業であり、シェール革命はジャンク債市場によって支えられてきたと言っても過言ではない。米国のエネルギー会社がハイイールド債市場(信用格付BB以下)の11%以上を占めており、 SPDR Bloomberg Barclays High Yield Bond ETF<JNK>は3月9日の原油価格急落で15%近く下落した。
今回の原油価格暴落で格下げされたエネルギー企業もあり、例えばWhiting Petroleum CorporationのS&Pの信用格付けはBB-からCCC+に格下げされた。また、3月はじめにはすでにPioneer Energyは破産申請している。
投資適格社債市場にも1割ほどエネルギー企業が存在するが、その大部分はBBBとぎりぎり投資適格という企業も多い。
シェールガス企業の破綻に伴うジャンク債市場の焦げ付き懸念は2015年の原油価格急落の際も指摘された。その時はシェールガス企業の採掘コストの平均である35ドルを下回る期間はそれほど長くなかったので、幾つかの企業が破綻したものの、それがジャンク債市場全体に波及するところまではいかなかった。
しかし、今回は2015年よりも原油価格が低い水準に達しており、経済的なショックに加えサウジアラビアとロシアの価格競争が続けば、原油価格の低迷が長期化する可能性がある。そうすれば影響が出てくる企業が増えてくるはずだ。
更に心配なのはレバレッジドローン市場への波及だ。レバレッジド・ローンはジャンク債よりも信用格付が低い企業の社債だが、それがCLOとして証券化もされており、語弊を恐れずに言えば企業版サブプライムローンだ。
レバレッジド・ローンについては当サイトでも昨年から何度も取り上げており、2019年秋にリスクが顕在化したことは記憶に新しい。
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シェールガス企業の経営悪化でジャンク債市場が焦げ付き、それがレバレッジド・ローン市場にまで波及すれば、第二のサブプライムショックが起こりかねない。
そうすれば、CLOを多く保有している金融機関にも影響が出かねない。これは日本の金融機関も笑い事ではなく、CLO投資に活発だった金融機関は国内にも多く存在する。
結局まとめれば、
- 原油価格下落
- シェールガス企業の経営悪化
- ジャンク債市場の焦げ付き
- CLO市場への波及
- ジャンク債やCLOを多く保有する金融機関への悪影響
というシナリオが実現すれば、バブル崩壊にとどまらず金融危機が起こりかねないというのが筆者の考えである。(他にボーイングからというシナリオも考えられるだろう。)
参考文献[1]:Financial Times, “Oil price war spells danger for US junk bonds”, 8 Mar 2020
参考文献[2]:Barron’s, “High-Yield Bonds Are Sinking as Bankruptcy Fears Hit the Oil Patch”, 9 Mar 2020