直感的には、中東情勢の悪化により原油価格が上がれば、相対的に他の燃料が有利になるので、パーム油価格も上がるように思える。しかし、事情はそう簡単ではないようだ。
ロイター通信によると、月曜日にインドのニューデリーで開催されたパーム油の業界関係者で行われた会議で、インド政府が非公式に、精製業者と輸入業者に対してマレーシア産パーム油の購入を回避するように求めたという。
マレーシアはインドネシアに次ぐパーム油の生産国だが、EUが環境への影響を理由に利用を抑制する方向に進んでおり、今やパーム油の最大の買い手はインドである。一方で、パーム原油価格の下落がインド国内の精製業者に打撃を与えているとして、インド政府は昨年から対応策を模索している。
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今回のインド政府による非公式の要請は、インドのカシミールでの対応やインド市民権法(CCA)に対してマレーシア政府が批判したことに対する報復措置と見られており、予想以上に複雑な事態であり、かつ、インドが購入を控えればマレーシア産パーム油価格に大きな影響を与える可能性がある。
パーム原油価格は昨年末から大幅に上昇しているが、イラン軍司令官殺害の頃がピークで6日時点では少し値を戻し、3,042リンギット/トンである。
今のところはマレーシア側はパーム油価格の上昇傾向が続く可能性が高いと見ている。マレーシアパーム油協議会(MPOC)のCEOであるカルヤーナ・サンドラム氏は、
- インドネシアのパーム油生産減少
- 中東情勢による原油価格の上昇
により、1月3日時点の3,116リンギット/トンから上昇が続くという見方を示している。その後のインド政府の圧力が明らかになったことで値下がりした形だが、今のところインド政府は全ての輸入業者に圧力をかけたわけではなく、バイヤーも購入を続けているとコメントしている。
参考文献[1]:Reuters, “India asks domestic refiners to avoid buying Malaysian palm oil: Sources”, 7 Jan 2020
参考文献[2]:Bernama, “CPO prices likely to stay above RM3,100 per tonne – MPOC”, 7 Jan 2020
2020年1月10日追記
マレーシア産業協会は、インドによる精製パーム油の輸入制限によりマレーシアの市場シェアの損失や、インドネシアとの価格競争を引き起こす懸念を示した。
2020年1月14日追記
マレーシアのテレサ・コック一次産業大臣は、インド政府が業者にマレーシアのパーム油輸入を控えるように圧力をかけているという一連の報道を否定した。一方で複数のインド業者はロイター通信に対し、
- マレーシアからの輸入が禁止されているわけではないが、インド政府による輸入指示も無い
- 1トン当たりの価格は、マレーシアの800ドルに対しインドネシアは810ドルであり、インド政府の方針に反してまでマレーシアからの輸入に乗り換えるほどのプレミアムではない
という旨を証言している。
The Edge Markets, “Kok: No Indian boycott of Malaysian palm oil”, 14 Jan 2020
2020年1月23日追記
マレーシア最大の製糖会社マラヤ製糖<KLSE: MSM>は、第1四半期にインドから13万トンの粗糖(4,920万ドル相当)を購入する方針をロイター通信に語った。マラヤ製糖はマレーシア国有の連邦土地開発局(Felda)の一部門である世界最大のパーム油生産企業FGVホールディングス<KLSE: FGV>である。
マラヤ製糖自体は言及していないが、インドのマレーシアに対するパーム油輸入制限について、マレーシア政府がなだめる為の入札であると見られている。
2020年3月13日追記
全インド砂糖貿易協会(AISTA)のPraful Vithalani会長がロイター通信に語ったところによれば、現時点でマレーシアがインドから輸入した粗糖は約32.4万トンで、前年の約11万トンと3倍に達する。これは2008年の31.3万トンに近い水準である。
Reuters, “Malaysia’s sugar purchases from India hit record amid diplomatic spat -trade”, 11 Mar 2020