ヘリウム供給不足の問題については、来年以降のアルジェリア、ロシア、カタールでの新規プロジェクトが緩和に繋がるという見方については先月も紹介した。
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一方でこれらの国々の名前を見て分かる通り、これらの国には大きな地政学的リスクが存在する。c&enは、今後5年間でヘリウム供給が大幅に増加することが期待できる一方で、地政学的リスクにより突然供給が停止するリスクがあることを懸念している。
例えば2017年のアラブ4ヶ国(サウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプト)によるカタール封鎖は天然ガス供給をストップさせ、同時に生産されるヘリウムガスの供給不足にも大きな影響を与えた。
参考:中東イスラム世界社会統合研究会「アラブ4か国によるカタール封鎖1年を振り返る」2018年6月5日
ヘリウム生産の大半は天然ガスから抽出することによるものであり、ヘリウム供給は
- 天然ガスの埋蔵量
- ヘリウムの混合密度
- ヘリウムの抽出技術
に依存する。カタールは世界有数のヘリウム生産量があり、供給シェアが増えることはそれだけ地政学的リスクを増すことになる。ロシアについては言うまでもないし、アルジェリアも来月12日の大統領選挙に対し、軍部による政権移行主導にデモ隊が反発しており、依然としてリスクは高い。
参考:東京新聞「軍部主導に反発デモ続く アルジェリア大統領選 来月12日」2019年11月25日
下図はアメリカ地質調査所(USGS)のデータによる、各国のヘリウムの生産量と貯蔵量を示している。(単位は百万立方メートル)
これを見て分かる通り、米国の生産が約56%を占めているが、カタールやアルジェリアの生産量も多く、今後ロシアも生産量を増やしていくという形になる。
筆者の今後の予想としては、c&enの見方の通り、中期的には供給量が改善するが地政学的リスクには注意である。しかし、長期的に見れば今後の石油から天然ガスへのシフトを見れば、天然ガス生産が増えるだろうし、それに付随してヘリウム生産も伸びると考えられるので、供給は安定化していくものと思われる。
参考文献[1]:c&en, “Help for helium users is on the way”, 24 Nov 2019
参考文献[2]:USGS, “Mineral Commodity Summaries 2019”