前回に引き続き、adjust社による世界のモバイルアプリ市場とマーケティング効果についての調査レポートMobile Growth Mapより、同社の尺度を紹介する。前回はGrowth Score(成長スコア)を見たが、今回はRetention Factor(保持因子)を見る。
前回:スマホアプリ市場とマーケティングについての新尺度 (1): Growth Score(成長スコア)
広告効果分析における保持率(Retention Rate)の重要性
Retention Factor(保持因子)の前に、Retention Rate(保持率)の説明をしなければならない。
スマホアプリに限らず、サービスのユーザーは通常の検索(自然検索、オーガニック検索と言う)で加入する人もいれば、広告によって加入する人もいる。
「広告によってどれだけの人がアプリをインストールしたか」という広告効果を分析する場合、単純にインストールの増分を見るだけでは不十分である。もしかしたら自然検索でインストールした人が増えていたのに、わざわざ広告を打ってしまって広告が「自然検索を共食い(organic canibalization)」してしまっているかもしれない。
こうした共食いを見分けることはマーケターにとって非常に重要であり、効果的に広告を打つには、
- (自然検索に比べて)広告を見た人がどれだけインストールしたか
- (自然検索に比べて)広告を見てインストールした人がどれだけ利用し続けているか
を分析しなければならない。前者だけでなく後者も検討しなくてはならない。前者だけでせっかく効果的に広告を打てていても、広告とニーズに乖離があれば、インストールしたユーザーがすぐにアプリ利用を辞めてしまい収益に繋がらない。
その時に重要なのが保持率(Retention Rate)の考え方である。以下は地域別にアプリのカテゴリー毎にユーザー保持率を見たものである。
どの地域でも黄色で表したゲーム(GAMES)は公開初日は30~35%と保持率が高いが、その後急速に下がる傾向がある。これは気軽にアプリをダウンロードし、すぐに飽きてしまうユーザーが大多数ということであり、感覚とも一致するだろう。エンターテイメントは初日の保持率が20%前後だが同様の傾向だ。
面白いのは南アメリカではeコマース(E-COMMERCE)もゲームと同様の傾向を描いていることである。ゲームだけでなく、気軽に新しいeコマースアプリを試してみるという特性があるのかもしれない。
逆に青色で示したユーティリティアプリ(UTILITIES)は、初日時点で保持率が10%を切るという特徴がある。ユーティリティの場合、ニーズが明確なので、最初にインストールして思ったものでなければ即刻アンインストールしてしまうというユーザーの行動が垣間見られる。
Retention Factor(保持因子)はマーケターにとって非常に重要
保持率が分かったところでいよいよRetention Factor(保持因子)についてである。保持因子の計算も成長スコアと同様に簡単である。
$$Retention Factor=\frac{Organic Retention Rate}{Paid Retention Rate}$$要するに「オーガニック検索でインストールしたユーザーの保持率」を「有料検索(検索結果に表示される広告)でインストールしたユーザーの保持率」で割ったものである。
保持因子が高いほど相対的にオーガニック検索の保持率が高く「広告効果が小さい」ことが分かり、低ければ「広告効果が大きい」ことが分かる。下図のように国別で比較すると全く傾向が異なることが分かる。
米国(11%)や英国(8%)など先進国を中心に保持因子が低く広告効果が大きい。一方でベトナム(79%)やUAE(71%)など、オーガニック検索による保持率と優良検索の保持率がそれほど変わらない国もあるというのが興味深い。
国によって広告効果は全く異なるという傾向が分かり、国際展開する場合などは注意する必要がある。
また、右側にカテゴリー別の保持因子も出ているが、エンターテイメントは170%なのに対し、ゲームは20%とカテゴリーによっても大きく異なる。
広告を打つタイミング
保持率に関連して、広告によるインストールの割合の推移も公開されている。一般にアプリの広告は初動が大事と言われ、最初に集中的に広告を打つのが大事とされるが、それはカテゴリーによって大きく異なる。
以下は、eコマース、エンターテイメント、ゲームの3カテゴリーのアプリについて、広告によるインストールの割合をアプリリリースからの経過週毎に見ている。
傾向をまとめれば、
- eコマース:公開直後は広告経由のインストールの割合が20%前後と低く、時間とともに上昇していく
- エンターテイメント:公開直後は広告経由のインストールが80%近くに達し、その後急速に低下し、公開後6週間くらいから再び増加していく
- ゲーム:公開直後は30%弱と低いが、その後4週目くらいまで急速に上昇し、その後12週目からなだからに低下していく
である。
エンターテイメントはリリース直後の広告が重要であるが、eコマースなどは最初に積極的に広告を打つのが良いとは言えない。
ゲームに関しては4週目くらいがピークになっているのは、公開直後は「口コミ」などで知った人のインストールが多いからだと考えられる。
参考文献:adjust, “Charting the globe with the Mobile Growth Map”
前回:スマホアプリ市場とマーケティングについての新尺度 (1): Growth Score(成長スコア)