前回、GEMの起業家精神についてのグローバルレポートの枠組みを説明した。今回は具体的なデータについて、TEAの部分を紹介する。
第1回はこちら:グローバル・アントレプレナーシップ・モニター・レポートから見る起業家精神(1):調査の枠組み
まず下図は、GEMの枠組みにおけるアーリーステージ(創業準備~創業3.5年まで)に該当する起業家TEA(Total early-stage Entrepreneurial Activity)が成人(18-64歳)人口に占める割合を示している。
これが一般的なアントレプレナーシップの国際比較をするための指標であり、日本は5.3%と世界的に見ても低い。一般的には高所得国ほど低い傾向にあるが、カナダなどは所得の割に高い。アンゴラは4割以上がアントレプレナーということで突出しているが、平均としては赤点線の12.5%程度となる。
アジアで最も高いのはタイだ。他に筆者が気になったのは起業家精神としてよく出てくるスウェーデンの数値は低いということだ。
この点について、起業の動機が「必要性(Necessity)」つまり生活の必要にせまられてなのか「機会(Opportunity)」なのかについて色分けしたのが下図である。濃い青色が必要性、灰色が機会を示す。
これによると、TEAが突出しているアンゴラは必要に迫られてという割合が高く、低所得国に特徴的な値となっている。スウェーデンは全体の数値こそ低いものの、必要性に迫られての起業は少ないようだ。
但し、これは自己申告の面が強いので、「機会の存在」をどの程度で認識しているかの国民性として捉えるべきだ。
例えばタイは「機会」の割合が非常に高いが、筆者が持っているデータとしては「バイクを買ったからバイクタクシーをやる」や「パソコンが1台余ったからネットカフェを経営する」といったレベルの気軽なスモールビジネスも非常に多い。この調査では一般市民への調査も多く行われており、こうしたビジネスもアントレプレナーに入っている。
自己申告としては、「成長期待」についての回答結果も興味深い。この成長期待は「5年以内に何人を雇う予定か」という質問に対し、0人(青色)、1-5人(水色)、6人以上(灰色)で分けている。
低所得や中所得国でTEAの割合が高い国は、やはり生活のためのということで個人経営や家族経営などが多く、0人という回答が多い。UEAやコロンビア、アイルランドは6人以上を雇う予定の起業家が多い。これは成長期待が高い企業が多いというケースもあれば、単に自信満々というケースもあるだろう。
比較データとしては「革新的なTEAの割合(Innovative TEA)」を示す下図である。革新的であるかどうかは「競合製品・サービスの多さ」で数値化している。その割合の高さとしてはチリとグアテマラが非常にイノベーティブということになる。無論、競合製品が無いからといって、それが成功するとも限らない。(ニッチ過ぎるだけかもしれない。)
下図は共同創業者も従業員もおらず、5年以内に採用予定も無い個人企業の割合を濃い青色で示している。ブラジルが突出して個人企業が多いというのが特徴的だ。サウジアラビア、UAE、カタール、インドネシア、インド辺りの個人企業の少なさは宗教的な理由があるかもしれない。インド以外はイスラム教が多く、インドはヒンドゥー教だが職業カーストなどが非常に重要である。
他にも、「事業失敗の理由」や「起業環境についての考え」、「国別のデータ」など紹介していないデータの方が多い。日本については個別に紹介する可能性があるが、ひとまずは一旦紹介を終えることにする。
参考文献
GEM: Global Entrepreneurship Monitor(2019), “2018/2019 Global Report”
みずほ情報総研(2019)「平成30年度創業・起業支援事業 (起業家精神に関する調査)報告書」(PDF注意)