国際司法裁判所(ICJ)ではなく、国際刑事裁判所(ICC)なので注意である。前者は国家間の紛争を扱うのに対し、後者は個人の重大犯罪(人道に対する罪、集団殺害犯罪など)を扱うものである。
マレーシアがローマ規程から脱退(Bernama)
- 4月5日、マハティール首相はマレーシアが国際刑事裁判所(ICC)ローマ規定から脱退する方針を表明
- マレーシアは3月4日にローマ規程を批准し加盟が決定したばかりだった
- 王室の中にマハティール首相を訴追しようとする政治的な動きがある可能性が理由
解説
国際刑事裁判所に加盟するための条約がローマ規程と呼ばれる。2018年3月には、麻薬犯罪者の射殺を推進するフィリピンのドゥテルテ大統領が脱退を決めたことも記憶に新しい。
マレーシアは2011年にローマ規程に調印し、批准の為に長年調査を進め、つい先日2019年3月4日に批准したばかりだが、その僅か1ヶ月後にマハティール首相は撤回の方針を示した。(加盟文書は6月までなら撤回できるという。)
撤回理由としてマハティール首相は、マレーシアがローマ規程を受け入れると、国内でマハティール首相らに対する人権訴訟が多発する危惧があるという。
マレーシアの国王は、13州のうちスルタン(州の首長)が存在する9州のスルタンから事実上(形式的には互選)の輪番制で決まる。マレーシアでは立憲君主制を採用しているので、国王の地位は儀礼的なものであり、首相と議会が実権を握っている。
しかし、イスラム教徒にとっては国王はイスラム文化の伝統を支える存在として重要であり、またイスラム法も存在するので、時に政府と王室が対立することがある。
マハティール首相は、第二次政権時代、1983年にスルタン諸侯の免訴特権を制限しようとして諸侯と対立したことがある。対立姿勢は今も続いている。再び表舞台に戻ってきたマハティール氏に対し、選挙を控えた2018年2月、2002年に国王から与えられたマハティール氏の称号を剥奪した。
こうした理由からマハティール首相は、ローマ規程が政治的に利用され、訴訟が提起されるリスクを避けたいというのが撤回の理由である。しかし、撤回したからといって、LGBTなどマイノリティに対して過度に不利益な扱いを取らないとは言明している。
参考文献
Bernama, “Malaysia to withdraw from Rome Statute”, 5 Apr 2019
The Edge Market, “PM: Malaysia to withdraw from Rome Statute over politicising of ratification”, 5 Apr 2019
NNA ASIA「クランタン王室、マハティール氏称号剥奪」2018年2月13日