世界的に年々厳しくなるタバコの広告規制に対し、世界五大タバコ会社Big Tobacco(フィリップ・モリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、インペリアル・ブランズ、日本たばこ、中国煙草)は、その都度広告を工夫してきた。
例えば米国では1971年にテレビやラジオからタバコの広告が規制されると、屋外広告や雑誌広告が増えた。1997年にそれらも禁止されると、個度はスポーツや音楽イベントの後援が増えた。それらも一部の例外を除いて2010年には禁止された。更に特に若者へのマーケティングは広範に規制されるようになった。
そして今、タバコ会社のマーケティングの主戦場はソーシャルメディアへと移っている。とは言っても、公式TwitterでプロモーションやFacebook広告といった分かりやすいものだけではない。
南カリフォルニア大学アネンバーグ校コミュニケーション&ジャーナリズムのロバート・コジネッツ氏は、調査研究により、タバコ会社が広範なタバコ広告規制の網の目をかいくぐり、ソーシャルメディアを使ったマーケティングを行っていることを示した。
事例として挙げられているのがインドネシアのタバコ会社グダン・ガラム社の取り組みである。同社はFacebookやInstagramで2000~3000人の「そこそこの」フォロワーを持つナノインフルエンサーを集め、報酬を与えた上で以下のようなことを行っている。
- タバコのブランドイメージを教育
- ソーシャルメディアの効果的な活用法をトレーニング(ハッシュタグ、写真の撮り方など)
- 若者と繋がる事を目的とした酒や音楽を活かしたポップなイベントを開催
- インフルエンサーにもイベントに出てもらい、タバコやロゴが移った写真を撮ってもらう
- イベントのハッシュタグを使って投稿
記事で挙げられているのが RedMoveNowというInstagramのハッシュタグで、実際に見てみると、若者を中心としたイベント中の写真の中に、いくつもタバコを刷っている人の写真がアップロードされていることが分かる。
https://www.instagram.com/explore/tags/redmovenow/
こうしたマーケティングは新しいタイプで低コストで行われるゲリラ・マーケティングと呼ばれるものの一種だが、悪く言えばステルスマーケティング(ステマ)である。
テレビなどでタバコ広告の規制が広がっているのは、未成年者が広告に触れないようにするためであるが、Facebookなど多くのソーシャルメディアは13歳以上であればアカウントを作成できる。そして、こうした若者に訴求しやすいイベントのハッシュタグなどに含まれるタバコ広告を、完全に未成年者の目に触れさせないのは不可能というのがポイントである。
コジネッツ氏らの研究グループは、一連の研究成果を元に、新しいタイプのタバコ広告の調査と規制を求める請願を出している。一方で、実質的に広告とそうでないものを見分けるのは困難であるとも認めており、規制には時間がかかるだろうという見方を示している。
参考文献
The Conversation, “How social media is helping Big Tobacco hook a new generation of smokers”