インドでのトリプル・タラーク禁止と女性シャリア裁判官の台頭

インドの人口の大多数約80%はヒンドゥー教徒であり、イスラム教徒は15%程度である。歴史的な流れもあり、インドにおいてはイスラム教徒は弱い立場にある。(前回のインド総選挙でも野党側の支持層にはヒンドゥー教徒が多くいた。)

弱い立場であるからこそ、イスラム教徒の権利を守ろうとする政治的な動きもあり、イスラム教の慣習が多く維持されてきた。それは一方で「トリプル・タラーク」といった慣習も維持されてきたという実態もあった。

トリプル・タラークとは、イスラム教スンニ派において夫婦のうち夫が3度「タラーク」と唱えれば離婚を可能とする慣習である。離婚が成立したら、女性は慰謝料に該当するものを受け取って婚姻関係は一方的に解消される。スンニ派のすべての国が導入するわけではなく、今では維持している国は少数派だが、インドでは2017年に違憲判決が出るまで容認されていた。

本来、トリプル・タラークは「2回まで離婚を撤回できる制度」であり、1度離婚を宣告しても3ヶ月は女性は再婚ができず、その間に性的交渉を持つと離婚が無効であり、和解によって撤回することが可能である。

しかし、夫婦喧嘩と酔った勢いにより「3度続けてタラークを唱えてしまう」という濫用が多く、唱えて後悔する夫婦も多い。

では再婚すれば良いではないかと思うが、イスラム教における「離婚」は重く、トリプル・タラークによって離婚した夫婦が再婚するには、ニカー・ハララという「女性が別の男性と再婚した上でトリプル・タラークを宣告される」必要性がある。

このニカー・ハララが厄介であり、中には同じ問題を抱えた夫婦が協力して再婚するケースもあるなど、再婚までの道のりは厳しい。

こういったことから前述の通り、インドでも2017年に違憲化されたわけだが、それでもトリプル・タラークの濫用は横行しており、今でも社会問題となっている。

その一方で、離婚・結婚を仲介する裁判官のような役割を果たす「カチス」を女性が担うケースが増えているというのも最近の流れとしては注目される。

そもそも女性がカチスになるという事自体が非常に新しいだけでなく、ニカー・ハララなど特殊な状況を理解できるという点では急速な「民主化」が進んでいると言える。

参考文献

Al Jazeera, “The rise of female Sharia judges in India”, 14 Jun 2019

AFP「インド最高裁、夫が3語唱えれば離婚可のイスラム慣習を禁止に」2017年8月22日

李耶シャンカール 「タラーク、タラーク、タラーク」(文芸思潮エッセイ賞入選作品)

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