くじ引きで政治家を決めるという考え方

カーネギーメロン大学の計算機科学部准教授アリエル・プロカッチャ氏がブルームバーグオピニオンに”Lotteries Instead of Elections? Not So Arbitrary”というコラムを寄稿している。選挙ではなく「くじ引き」で政治家を決めるというアイデアについて議論している。

一見すると荒唐無稽だが、古代から事例として存在し、それがうまくいくと考えられる証拠も多く、思考実験としては非常に面白い。

コラムによると、紀元前4-5世紀にはアテナイ政府では、いくつかの政府機関において無作為で選んだボランティアが立法、行政、外交などを担っていたという。任期は1年で、30歳以上のアテナイ市民の50-70%が少なくとも評議会で1期以上を努めたと推定されている。

他にもルネサンス時代のベネチアでドゥカーレを選出するプロセス、今のスペインにあったアラゴン王国、現代ではサンマリノの国家元首を選択するプロセス(60人の議員から無作為)などで「くじ引き」が利用されている。

アテナイ政府の例のように、少人数の地域や国家でしか成立しないようにも見えるが、 David Van Reybrouckは著書”Against Elections”では、アテナイモデルに基づき、

  • アジェンダ評議会(立法するトピックの選択)
  • レビューパネル(法案の開発)
  • ルール評議会(立法プロセスの調整)

と立法プロセスを細分化し、志願者のプールから3年任期で無作為に選ばれ、十分な給与が保証されるという仕組みを提案している。

参考: Van Reybrouck, David. Against elections: The case for democracy. Random House, 2016.

プロカッチャ氏によると、国民を無作為に選んで立法プロセスの一部を任せるという実験は少なからず行われている。アイルランド、オランダ、カナダの2つの州(オンタリオ州とブリティッシュコロンビア州) では、100-160人のメンバーをランダムに選択し、9-12ヶ月に渡って選挙や憲法改正についての審議や提案の作成が行われた。

他にもベルギーのドイツ語コミュニティにぴては、18ヶ月間の任期で無作為に選ばれた24人の市民で構成される恒久的な市民評議会の設立が決定されている。この議会は定期的に開催され、勧告を作成している。

より大きな政府レベルで「くじ引き制」を導入するのは現実的には政治的ハードルが高いが、いわゆる利益供与や腐敗、地域的な偏りなどを是正する効果が高いという報告がある。

よくよく考えれば、米国の陪審員にしても日本の裁判員にしても、司法においては無作為に国民を選んで任せるという手法は既に実現している。司法が良くて立法が駄目だという道理は無い。

国民の代表を「無作為」に選ぶということに疑問を持つ人は多いと思われる。しかし、古くから言われるピーターの法則や、それを活かしたイタリアのカターニア大の研究チームによる「ランダムに昇進させた方が良い」というシミュレーション結果(イグノーベル賞受賞)などとも整合的であるように思える。

参考:President Online「なぜ昇進はくじ引きで決めたほうがいいのか」2013年2月18日

参考:[新装版]ピーターの法則――「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由

参考文献:Bloomberg, “Lotteries Instead of Elections? Not So Arbitrary”, 6 Sep 2019

       

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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