The Economistが「退職者が自動運転車の理想的な顧客となりうる理由」というタイトルでコラムを書いている。通常、新製品のアーリーアダプターは若者であることが多いが、シリコンバレーのスタートアップVoyage社は、フロリダの退職者コミュニティThe Villages(人口12.5万人)で自動運転車の試験走行をした結果、退職者コミュニティこそが理想的な場所だという。
The Villagesは退職者だけが住む事に特化して開発された村であり、2018年にはForbes誌のBest Places To Retire (引退するのに最適な場所)に3度目の選出となった。こうした村は一般的にAge-restricted community(年齢制限のあるコミュニティ)と呼ばれ、居住要件は55歳以上であることが多い。住宅は勿論、商業施設、プールやゴルフといったエンターテイメント施設が多数存在するのが特徴である。こうした退職者コミュニティの住宅情報を扱う55PLACES.COMによると、この種のコミュニティは全米に2000以上あり、フロリダ州は特に多く約400存在する。
VoyageのCEOオリバー・キャメロン氏は、以下の3つの理由を挙げている。
- 市街地よりも退職者コミュニティの方がナビゲートしやすい環境である
- 車での移動に対して強い需要がある
- 退職者コミュニティはアメリカで最も急成長している住宅地の一つである
1つ目の理由については明らかだ。複雑な道路が少ない上、車の通行量も少ないので、システムが学習しなければならないことが少ないということである。
2つ目の理由も分かりやすい。高齢になってくると運動能力が落ちて歩くのが大変になる上、運転するにも判断能力も落ちてくるからである。キャメロン氏は、車の所有コストについても挙げており、「必要な時に自動運転車を呼べる」ことも魅力的だと述べている。そして、Voyageのプロトタイプカーも他の地域と違い、The Villagesでは好意的に受け止められているという。
3つ目は市場のパイの問題であり、高齢化に伴ってこうしたコミュニティが増加していくというのはその通りだろう。
これ自体はアメリカの「退職者コミュニティ」という特殊なケースであるが、一般的に高齢者は自動運転車のアーリーアダプターとなり得るだろうか。
まず、1については該当する場所もあればそうではない場所もあるだろう。一般的に都市部の方が若年人口が多く、地方の方が高齢者人口が多いが、農村のような平地であれば、複雑な道路が少ないという条件に該当する。一方で、日本の場合は農村のような場所の多いが、山間部の町村なども多く、こうした土地は傾斜や視界の悪さなど、交通量が多くても寧ろ自動運転が難しい場所もあると考えられる。
2については一般的に言えるだろう。決まったルートでの自動運転は比較的容易なので、高齢者が利用するようなバスなどであれば高い需要があるだろう。また、都市部のバスならドライバーの人件費もまかないやすいが、人口密度の低い高齢化地域であれば、定期的に商業施設や病院などを巡回するようなコミュニティバスなどの用途が考えられる。
しかし、高齢になるほど所謂「頭が固い」状態になってくるので、新しいものが受け入れられにくなってくるのが最大の障壁だろう。また、航空機よりも自動車の事故の確率の方が圧倒的に高いにも関わらず、前者が発生するとセンセーショナルに取り上げられるので、認知バイアスの問題も発生しやすい。(クレジットカード詐欺を怖がって、よりリスクの高い現金志向になることも同様だ。)自動運転車の事故も同様で、最終的に人間の運転よりも安全になったとしても、報道によって過剰に危険視する人は多く現れる可能性がある。
参考文献
The Economist, “Why retired people could be ideal customers for self-driving cars “