Glassdoorでの高評価はより高い株価収益率をもたらしますが、そこには罠があります。(Barron’s)
- Glassdoorは、従業員・元従業員が匿名で会社・従業員の評判を掲載するサイト
- 2008年の起ち上げ以来、90万社以上、4,700万件以上のレビューが蓄積
- 株価が低くてもGlassdoorで高格付の企業のシャープレシオは1.18で、低格付の企業の0.53より優れている
- 少数の企業グループがサイトでの評価を奨励し、5つ星の割合が異常に増えてきている
評判が良い企業・悪い企業
バンクオブアメリカ・メリルリンチのアナリストであるサヴィータ・スブラマニアン氏は、リクルートの子会社の企業クチコミサービスGlassdoorの企業・経営陣・上司のレビューを自然言語処理によって分析することで、高格付の企業ほど株価収益率が高い事を明らかにした。
筆者も業務では似たような事(転職サイトのレビューや掲示板の書き込みの感情分析など)をやってきており、似た分析は山程存在するはずである。CNBCの記者ティム・マラニー氏が、
常識でしょ?当然。でも、アナリストがそれを示すにはビッグデータが必要だったというだけの話です。
Market Watch
というように、常識的な内容であっても顧客に対して意味のある情報を伝えるにはデータを利用して分析結果を公表しなければならないという話である。
従業員を大切にできない企業は、パフォーマンスが落ちたり、人がすぐに辞めて技術が蓄積しなかったり、悪評が広まって売上に影響したりと、ろくな事が無い。また、好業績を出せる企業であるからこそ、従業員にとって良い環境を作り出す余裕があるという方向からの効果も考えられ、いずれにしても、その如何によって好循環にも悪循環にもなる。
分析結果によると、S&P 500セクターのうち、最悪のセンチメントだったのがConsumer Discretionary(一般消費財)、最高がInformation Technology(情報技術)である。
個別の企業では以下が挙げられている。
- センチメントが良い企業
- National Bank Holdings<NYSE: NBHC>
- Service Corporation International<NYSE:SCI>
- IBM<NYSE:IBM>
- salesforce.com<NYSE:CRM>
- センチメントが悪い企業
- Dollar Tree<NASDAQ:DLTR>
- Chipotle Mexican Grill<NYSE:CMG>
- Bloomin’ Brands<NASDAQ:BLMN>
罠とその対策
常識的なだけあって、既にGlassdoorのデータを「利用」しようとする企業も存在しているというのが記事で言う「罠」である。スブラマニアン氏によると、5つ星評価の割合は年々増えており、これは景気回復の効果ではなく、一部の企業が従業員に沢山のレビューを書かせているからであり、2014~2018年の5つ星のうちの40%はたった24社で占められているというのだ。
これに対してスブラマニアン氏は、レビューの数値データとテキストの勘定データを組み合わせて、その矛盾を見つけることで、いわゆる「サクラ」を除外するプロセスを取ったという。Glassdoorでは数値では5つ星でも「企業の長所と短所」を書く欄において明確に否定的な記述が増えるという。
こうしたサクラ除去もよくされており、寧ろ統計解析や機械学習ではこうした「分析に役立たないデータ」を如何に除外するかが肝である。例えば、商品レビューのサクラには、テキストの長さや語彙に特徴が出ていたりする。
スブラマニアン氏の研究の場合も、30ワード以上の長いレビューに絞って分析をすることで予測力が高まったと言っている。但し、これに関して記事では、
- 否定的な人は肯定的な人よりも長いレビューを書く傾向
- 元従業員のレビューは「情報が古い」、「(辞めているので)マイナスに偏る」傾向
というバイアスについても指摘している。この指摘も妥当ではあるが、これについては
- 日付
- 従業員か元従業員か
- 文字数
といった情報を変数に入れる事で対応できると思われる。(恐らくスブラマニアン氏もやっているだろう。)
参考文献
Barron’s, “High Glassdoor Ratings Can Lead to Better Stock Returns, But There’s a Catch”
Market Watch, “The best way to get rich is to invest in good bosses”