孫正義についての古くて新しい論評

ソフトバンクの孫正義氏についての論評は日本では昔からその成果や大言について数多くある。しかし、米国では「アジアのバフェット」という呼び名は割と昔からあるが、投資家として大成功したという点では正しいものの、的を射たものとも思えない。

そんな中、CNBCの記者アレックス・シャーマン氏が”Masayoshi Son: Genius or insane? Maybe neither”(孫正義:天才か狂気か?恐らくどちらでもない)という論評を書いている。Uberなど最近孫氏についての論評は海外記事でよく見かけ、その一つであると思われる。

2000年には通信会社、アリババへの投資の大成功、そして200億ドルを超える彼の総資産の大部分がアリババであることなど、資産の大きさや投資のインパクトを整理した上で、ビジョンファンドに力を入れていることを指摘する。

ビジョンファンドの投資哲学を支えるのは昔から孫氏が掲げている「300年計画」である。一見、天才的な発想を持つようにも見えるが、1719年から30年おきに現在を予測することを考えれば、どれだけ「非常識で馬鹿げているか」とシャーマン氏は言う。

ビジョンファンドを含め、孫氏の投資には危なっかしいものが多い。Uberは悪い投資ではないが、既に激しい競争に晒されており、今後の成長は自動運転の成否にもかかっている。ソフトバンクはSprint株の80%以上を保有しているが、SprintとT-Mobileの合併が規制当局に認められるかどうかは非常に大きな問題だ。そして、WeWork投資では大きな損失を出している。

シャーマン氏は、ビジョンファンドの資金を得た起業家が孫氏のビジョンの素晴らしさなどを褒め称えている事を挙げた上で、「そもそも彼のビジョンは正確にはどういうものか」という疑問を呈す。

というのも、ビジョンファンドの投資は案件固有のもので、「オッカムの剃刀」(ある物事を説明するのに、必要以上に多くの仮定を取るべきではないという考え)から考えれば、明らかに300年という期間は不要だということだ。

この解釈について補足すると、300年前の技術から考えれば、当時「これから伸びる」とされた技術でも今や時代遅れになっているということだ。例えば、ワットが「新方式」の蒸気機関を発明したのは1769年で、それに連なるような別の研究は1690年代頃に作られている。

仮に1700年に「これからは蒸気機関だ」と言って大規模な投資を仕掛けたとして、そのビジョンの先を2000年にまでつなげる必要があるかといえば、そこまでの長期視点は不要かもしれない。

シャーマン氏は、一般的にはベンチャーキャピタル投資の後期は収益率は低くなるので、時間が経てば立つほど成功には多くの「ヒット」が必要になり、それが成否を分けると指摘し、その行方は興味深いと言っている。

そして最後に、彼は「天才でも狂気でもなく、ビジネスリスクを取る事に情熱を持つ本当に野心的な男」という風に評している。

さて、この論評はどこかで見たようなそうでないような内容である。恐らく、「300年計画」のくだりは日本では至るところで論じられているはずだ。しかし、米国ではあまり見ないまともな論評のように見え、その意味では新しい。

参考文献:CNBC, “Masayoshi Son: Genius or insane? Maybe neither”, 19 May 2019

この記事の著者 HAL について

金融・マーケティング分野の機械学習システム開発や導入支援が専門。SlofiAでは主に海外情勢に関する記事、金融工学や機械学習に関する記事を担当。

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