生活のためのデイトレード

デイトレードで生計を立てている人がいる。中には莫大な金額を動かす有名な投資家もいるが、大多数の人は失敗する。きちんと財務諸表などを読んで合理的に投資している人もいるが、大抵は博打のレベルである。今回紹介するのは「生活のためのデイトレード」を行っている人についての調査分析である。

Fernando Chagueらは、2013~2015年のサンパウロ証券・商品・先物取引所(通称B3)で mini-Ibovespa(ボベスパ指数ミニ)を初めて取引したデイトレーダー19,646人を追跡調査した。(B3はCMEとインド国立証券取引所に次ぐ世界で3番目に出来高が多いデリバティブ市場である。)

この論文の主目的は、Forbesで”Day Trading is the new sexy”と書かれたり、”day trading for a living”(生活のためのデイトレード)と謳われるキャッチフレーズがインターネット上に溢れているが、実態が真逆であることを示して警鐘を鳴らすことである。タイトルもその名の通り”Day Trading for a Living?”(生活のためのデイトレード?)と疑問形である。

論文の主要な結論は「個人でデイトレードで生計を立てることは実質的に不可能であること」である。その根拠としては2つ挙げられており、1つ目が「デイトレードには学習効果が無いこと」、2つ目が「97%の投資家が損失を出し、利益を出している人も僅かな金額であること」である。

デイトレードの学習効果

前述の通り調査対象者19,646人は2013-2015年にデイトレードを始めた投資家である。投資日数ごとにパフォーマンスを見ることで学習効果があるかが調べられた。

以下は投資日数別の「利益を出した人の割合」である。横軸が「投資日数」、縦軸が「利益を出した人の割合」である。黒(gross)が取引コストを引く前、赤(net of fees)が取引コストを引いた後(但し税引前)である。ここでは取引コストを引いた赤い線を見ていく。

投資日数別利益を出した人の割合
出典: Chague, Fernando et al (2019), Figure1

1日だけ取引をした投資家(1,111人)ですら29.8%が利益を出せていない。デイトレードは取引コストを引けばマイナスサムゲームであるので半数を切っているのは自然である。その後、取引日数が増えるごとに利益を出せる人は減っていき、300日以上取引をした1,551人のうち利益を出せたのはわずか47人(3%)であり、97%は損失を出しているということが分かる。

論文では統計的な解析も行われており、このデータからはデイトレードによる学習効果が認められないと結論づけられている。

わずかな利益

では、300日以上デイトレードを続けてトータルリターンがプラスである47人の投資家はどれくらい稼いだのか。下図は横軸が「1日当たりの平均利益」、縦軸が「1日当たり利益の標準偏差」である。

300日以上の取引で利益を出した47人の利益と標準偏差
出典: Chague, Fernando et al (2019), Figure2

2つの点線が引かれているのが分かるが、左のminimum wageがブラジルの最低賃金(16ドル/日)、右のbank teller initial wageがブラジルの銀行窓口係の初任給(54ドル/日)である。

これを見れば、47人のうち30人はブラジルの最低賃金を下回っており、最低賃金以上銀行窓口係の初任給以下で9人である。

ブラジルの賃金水準を考えれば、これを超えるまともな利益を出せているのはたったの8人である。300日以上トレードを続けた1,551人のうち8人だから僅か0.5%に過ぎない。

最も利益を出している3人は1日に約300ドルの利益を出しているが、その標準偏差が凄まじい。標準偏差が2,000~3,500ドルくらいになっており、3,000ドルとして考えれば、2σ区間(95.45%)に収まる利益の分布は-2700ドル~+3,300ドルとかなりハイリスクな投資をしているということが分かる。(そしてハイリターンとは言えない。)

これはブラジルの投資家に対する研究であるが、どこの国でも動かす金額が違うだけで、大きくは構造は変わらないだろう。

参考文献:Chague, Fernando and De-Losso, Rodrigo and Giovannetti, Bruno, Day Trading for a Living? (August 14, 2019). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3423101

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