人口成長・経済成長著しいインドだが、女性の労働参加率が非常に低く、下がり続けているという問題がある。下図は1990年以降のインドの女性労働参加率を示しているが、2005年の31.8%をピークに、2020年は20.3%まで下落している。
これは世界銀行のデータにおいて、データが存在する世界187ヶ国中180位という低さで、世界平均47%を大きく下回る。(日本は53%、OECD平均は52%)
勿論、女性の労働参加率が高ければ良いというわけではない(例えば最も高いルワンダは84%だが、これは著しい貧困が原因である。)が、インドの場合は社会的な問題で下落し続けている点で、その構造をよく知っておく必要がある。
基本的にインドでは女性は「家庭で子育てをするもの」という風に認識されており、妊娠による離職率が高く、その後の職場復帰が難しいという状況がある。
職場へ妊娠を伝えた女性ジャーナリストが、その1か月後に「業務成績が悪い」ことを理由に解雇通知を受け取ったという事例があります。妊娠中の解雇は不法だと彼女は裁判に持ち込みましたが、法律で定められている「3か月の産休と元の職場に復帰する権利」を無視されても、たいていのインド女性は泣き寝入りで、離職に追い込まれます。
nomad journal「【世界の働き方事情】第18回:女性が職場から消えつつあるインド」2017年6月26日
特に農村で女性に対する固定観念が強く、下図のように都市部に比べて農村部の方が女性の労働参加率が低い。
シングラ・パメラ(2010)によると、インドにおいては女性は家庭内に閉じこもっていることが期待され、家庭内での女性への暴力も容認されているが、その構造は映画などでも肯定され長期的に維持されている。
インドで女性や少女が直面する暴力のなかでも、家庭という聖域で起こるドメスティック・バイオレンスは、公の場に持ち出すべきではない個人的な問題であるとみなされているため、公の場で議論されることが極めて少ない。各地にはこの慣習を助長することわざがあり、映画のなかでもそれが巧みに描かれてきた。強調される点は、夫による暴力と夫婦間の愛情が等しいという考え方を反映した、感情的、性的関係である。これが、ドメスティック・バイオレンスへの介入に対する社会的抵抗の大きな要因である。
シングラ・パメラ(2010)「海外の女性/ジェンダー情報 : インドにおける女性の権利とジェンダーに基づく暴力」『国立女性教育会館研究ジャーナル』 (14), 145-153, 2010-03-01
こうした構造はヴェーダ時代後期にまで遡り、現在は同一賃金法(1976)で賃金の男女差別が禁じられているが、業種によっては賃金差別がまかり通っていたり、賃金が低い職種に従事していたり、前述の離職を理由に昇進できないといった状況が続いている。そうすると、ますます女性の就業が減るという悪循環に陥る。
高等教育を受ける女性も増えてきてはいるが、未就学の女性も未だ多く、World Economic Forum「Mind the 100 Year Gap」によれば、識字率は男性82.4%に対し、女性は65.8%にとどまる。
また、イスラム教徒人口が増えているのも労働参加率下落の要因の一つだろう。先の世界銀行のデータでは、女性の労働参加率が全体的に低いのはアラブ世界で、平均で21%とインドと近い値である。
モディ首相はギグ・エコノミーを利用した女性の労働参加などを掲げているが、その深刻な構造を変えるのは並大抵の事ではない。
古沢昌之他. (2015). 新興国における人事労務管理と現地経営.