エール大学ロースクールのスティーブン・L・カーター教授がブルームバーグオピニオンに寄稿している。カーター教授は、新型コロナウイルスのパンデミックに伴うオンライン教育を否定するものではなく有用であるとした上で、「オンライン講義に欠けているものは何か」という考えを4つ述べている。ここではその内、日本でも大きく関係ある3つ(あとひとつは人種・性別についての効果)を紹介する。
まず、対面の講義だと学生の様子をよく見ることができ、誰が理解しているか、誰が理解を放棄しているか等を「読む」ことができるという。これは学生にとっても同じで、周りの様子が分かるので、自分が思っている疑問点が「周りの学生と共通している」と認識することができるので、質問しやすいという環境面での効果も指摘している。
これは筆者が今までIT関連の対面講義とオンライン講義を実施してきた中で、先日指摘したことと同じ事を言っている。
まず質問を受け付けるが、通常の場合に比べて質問が出にくい。受講者にとってもビデオ会議での参加は他の受講者の様子がわかりにくく、質問しづらいのだろう。そして、質問が出ても「平均よりやや下」くらいの受講者の質問が多い。
(中略)
ランダムに受講者を指名して質問を促すこともできるが、上でも下でも平均から大きく乖離している受講者は講習中には質問はあまりしない傾向にある。これもある種の「空気」を読んでいるのだと思える。
「オンライン教育の生産性」
つまり、「講義の流れを止めるような非本質的な質問をしてしまったらどうしよう」と心配して質問ができなくなるのだ。だから活発に質問がしにくい状況になる。
カーター教授は次に、やはり対面講義の方が学生が集中して学習できる可能性が高くなるという。特に一人だとテキストメッセージを送受信するなどマルチタスクをしてしまう人が多くなり、それが学習の生産性を落とすことになるという。
筆者が講習でアンケートを取った際にも、対面の方が集中しやすい人が多かった。中にはオンラインの方が集中できるという受講生もいたが、基本的には一人だと家族の目や耳が気になったり、気が散るものが置いてあったりという理由で集中でいない人が多かった。
3つ目が「ユーモア」である。1つ目の学生の様子をよく見ることができるという事と関係があるが、よく見えるからこそ、学生の集中力が途切れている時や、注目を集めたい時にジョークを言う事が効果的という報告が存在する。
ユーモアの効果はオンライン講義でも存在するという示唆は存在するが、カーター教授はオンラインでジョークを言っても反応がイマイチであると指摘している。
これは筆者も同様で、毎年言っている「鉄板のネタ」が幾つか存在するわけだが、今年はオンラインで同じ事を言っても尽く滑った。カーター教授は、少なくともオンラインではユーモアの表現の仕方に工夫が必要であると指摘している。
参考文献:Bloomberg, “The Greatest Teaching Techniques Don’t Compute Over Zoom”, 12 Jul 2020