投資に役立つ『全世界史』(12):カーバ神殿とサウジアラビア

今回も引き続き出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫 より、読む過程で投資に役立つヒントとなると考えたものを紹介していく。今回は第四部3章「パクス・モンゴリア」である。ここでは聖地メッカのカーバ神殿のキスワに着目する。

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マムルーク朝の君主となったバイバルスは、アッバース朝から亡命してきたカリフの一族を守護し、カリフに就けることになる。カリフはスンナ派とシーア派で意味が異なるが、イスラム教の指導者である。

カリフを擁立した後にバイバルスが行ったのが「キスワの寄贈」である。キスワとは、冒頭画像にあるように、聖地メッカのカーバ神殿に巻いてある金の刺繍が施された黒い布のことである。

元々は商人が歌を布に書いてカーバ神殿に吊るして競い合ったのがルーツだが、現在ではカーバ神殿にかけるキスワを寄贈できる人がイスラムの盟主であるという伝統となっている。バイバルスは、カリフの守護者であるという権威づけるために、毎年カイロからメッカに大キャラバン隊を派遣してキスワを寄贈し続けた。

彼の作戦は功を奏して、バイバルスはサラディンに並ぶイスラム世界の英雄として名を残しました。今日、カアバ神殿のキスワを誰が報じているかといえば、サウジアラビアの国王です。

出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫(p. 374)

現在は毎年巡礼の時期にキスワが一度かけ替えられている。この方式が確立したのはアッバース朝の34代カリフであるアル・ナシル(ナースィル)である。

現在キスワを寄贈しているのがサウジアラビアであることの最大の理由は、そもそもメッカがサウジアラビアであることが大きいが、イスラムの盟主であると示し続けられる事はサウジアラビアにとって非常に重要なことである。

サウジアラビアは他の民主主義国家から見れば多大な人権問題を抱えている国であるが、米国などもサウジアラビアに対して甘いのは何も石油が出るからだけではない。イスラムの盟主を攻撃することは、スンナ派全体への攻撃にも等しいというメッセージを与えかねないのだ。

この意味でキスワというものを認識しておく事は非常に重要な事実である。

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出口治明(2018)『全世界史 上巻』新潮文庫


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