韓国が取り得るイラン制裁回避は原油備蓄の「輸出」である

イラン外務省は、韓国に対してIBK企業銀行とウリ銀行にあるイラン中央銀行名義の預金7兆ウォン(約6,500億円)を引き出せるように要求している。これは、イランから原油を多く輸入している韓国の未払い輸入代金などが蓄積したものだが、米国の制裁によりウォン決済口座が凍結されていることが原因である。

参考:レコードチャイナ「「韓国の中東外交に危機」と韓国メディア、ネットでも批判続出」2019年12月18日

当然それ以前からドル決済も制裁によりできないため、イランのダヤニー族による大宇エレクトロニクス買収契約の韓国側の破棄に伴う、ISD敗訴金750億ウォン(約69億円)の支払い方法も困難となっている。

参考:中央日報「韓国政府、イランに支払う750億ウォン「ISD敗訴金」…米国の制裁のため方法なし」2020年1月6日

もっとも、制裁逃れとしてよく使われるのが「物々交換」である。イランと韓国も原油の代金を物品で受け取ることに2018年に合意している。イランが制裁回避のために物々交換を行うのは初めてではなく、2012年にもトルコと原油と金の物々交換を行っていたことが明らかになっている。

参考:AFP「イランと韓国、原油の「物々交換」取引で合意 制裁の回避図る」2018年12月2日

では、物々交換をすれば良いではないかと思うが、日本からのフッ化水素の横流しができなくなったので、代金として支払う代替的な物品が必要な状況になっている。韓国企業によるイランやシリアなどへの不正輸出は散々報じられているので改めて言う必要は無いだろうが、これに関して茂木誠氏は日本の輸出管理強化については、以下のような推測をしており、筆者も同意である。

ランプ大統領は日本製フッ化水素が韓国経由で北朝鮮やイランに横流しされている、という確証を得ており、そこで安倍首相を「代理人」としてイランに派遣してこれを確認させ、自ら板門店に乗り込んで北朝鮮に核開発停止を念押しした。そして安倍首相はアメリカの意向を受けて、経産省にフッ化水素の輸出管理強化を指示した――。

ダイヤモンド・オンライン「韓国・北朝鮮・イランは「悪の枢軸」か?日韓対立の深層を推理する」2019年7月31日

フッ化水素の代わりに何を原油代金として輸出すれば良いかと言えば、最終的な手段として韓国政府が取り得るのが原油備蓄である。

韓国政府の企画財政部の金容範第一次官は、中東で高まっている緊張に対して、韓国の原油輸入に短期的な影響は無いとしつつも、場合によっては戦略的原油備蓄を放出する可能性を指摘している。

参考:Bernama, “S Korea to consider release of oil reserves if Mideast tension worsens”, 7 Jan 2020

実際のところ、イランにとっても米国に対して報復して対立を激化するメリットは無いし、米国にとってもせっかく高値を維持してきた株式市場を崩壊させるのは大統領選に響くので、双方にとってメリットは無い。だからTwitter上でやり合っているとも言える。

多くの市場関係者は楽観的であり、そんな中でいきなり原油備蓄放出のオプションを示すことには唐突感がある。ではなぜこれを言い出したか。原油備蓄をイランへ輸出する(=イランに原油を返却する)ことで韓国による原油の輸入代金を相殺するオプションが有り得るからだ。

韓国政府の原油備蓄量は9,650万バレルに達し、民間部門を合わせれば2億バレルに達する。備蓄量は180日分だが、この1/3で輸入代金の大半を相殺することが可能である。中東の危機により原油価格は上昇しており、イランは物々交換の相手国を複数持つので、原油を再度輸入する障壁はそれほど高くない。

別に産油国が原油を輸入することはそれほど珍しいことではない。原油価格が上昇する中、ドローン攻撃などで産油量が落ち込んでいるサウジアラビアは、輸出分を確保するために原油輸入を検討するなど、原油価格が上昇している状況下では有り得ない話ではない。

これは、中東情勢がこれ以上悪化しない(=韓国への原油供給は安定している)場合のシナリオの一つであるが、備蓄放出を匂わせた背景として十分に有り得るものだ。

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