不景気でも娯楽産業は強いと言われる。しかし、いくら強いと言っても「他の産業に比べて相対的に見て強い」というのが一般的であり、例えば東京ディズニーリゾートの入園者数のデータを見ても、バブル崩壊後やリーマンショック後は多少の落ち込みは見られる。
しかし、インドの映画市場はそれとは異なり、不景気になると文字通り「伸びる」というのである。
状況が厳しくなるにつれて、インド人は映画館に行くようになる(Channel NewsAsia/AFP)
- インドの四半期成長率が6年振りに最低水準に低下したが、映画産業が大幅に伸びている
- 食事から下着、自動車まであらゆるものへの支出を抑制しても「現実逃避するための素晴らしい方法」として映画館が選択される
- 映画業界アナリストのギリッシュ・ヨハールによると、NetflixやAmazon Primeなどの進出にも関わらず、2019年の第1~3四半期のボリウッド市場は前年比15%の成長
- インド最大のシネマコンプレックス会社PVR Cinemasの年間収益が1年で1/3近く増加して4億3,500万ドルに達し、来年は更に良くなる見込み
- 同様の傾向は2008年の世界金融危機の時にも見られ、Box Office Indiaのチケット収入は 2006-2009年の間に19%増加
- 逆に同社のチケット収入は、2014年にモディ首相の誕生で経済楽観論が広まると前年の5億2,500万ドルから5億1,100万ドルに減少
- 化粧品など高額な消費を控え、代わりに安価な映画に行く傾向が見られる
補足
インドには総合的な映画市場に関する統計が無く、記事に出てくるような断片的なデータしか存在しないことに留意する必要があるが、インドにおいては景気と映画以上は逆相関する傾向があるようだ。
自動車や輸入化粧品といった高額なものだけでなく、インドでは食費や下着といった生活必需品まで消費が控えられる。しかし、それでも映画館には足を運ぶ。
インドの映画チケット価格は相対的に安く、物価が高いムンバイであっても75ルピー(1ドル)あれば3時間(インド映画は歌や踊りも多いので時間が長い傾向がある)もエアコンが効いた空間で映画を観られるのが「絶好の現実逃避場所」になるそうだ。
安価に涼しい空間に長時間いられるというだけでも大きな価値になり、PCやスマートフォンで映画をダウンロードすることとは全く異なるという事も指摘されている。
参考文献:Channel NewsAsia, “As the going gets tough, Indians get going … to the movies”, 18 Dec 2019