顔認識技術と言えばセキュリティ分野での利用が多く、カジノにおいても利用が進んでいる。しかし、カジノという特殊な環境では実用性上の問題も多く、また、利益を生むために倫理的な問題も発生しうる。
ネバダ大学ラスベガス校(UNLV)でホスピタリティマネジメントの修士課程に属するワン・ウェンロン研究助手は、カジノにおける顔認識技術に焦点を当てた学際的研究プロジェクトに参加している。
このプロジェクトの研究過程でセキュリティ上の問題と倫理上の問題が発見された。
まず、セキュリティ上の問題についてはカジノという空間の特殊性により、顔認識技術がそれに十分に対応できていないということが挙げられている。挙げられている空間の特殊性は、
- 人の往来の多さ
- 敷地が広大であること
- 動的照明(点滅する照明など)
である。つまり、人はゲームを行う場所以外ではあまり静止していないので、人を画像認識する際に取得できる情報が限られていない上、カジノフロアは一般的に 広大な場所なので、それらを全て網羅することが難しい。更に、点滅する照明などで画像が目まぐるしく変わるので、その点も正確な認識を難しくする。
それでも、悪い人はどこにでも現れるので、不特定多数の人が集まるカジノにおいて客の安全を守るため、顔認識技術を導入してセキュリティを確保する動きは進んでいる。
しかし一方で、営業上の利益を確保するために利用を検討するカジノも出現しており、倫理上の問題も指摘されている。
挙げられている例は2つある。
- 介入目的で問題のあるギャンブラーを識別する
- ハイローラーやVIPを認識することでプレミアムサービスを有効化する
介入目的と言っても一部のパチンコ店がやっている出玉操作の話ではない。(注1)
ここでそういう話ではない。顔認識技術を使えば潜在的にはそういった目的での利用も可能ではあるが、多くの国でカジノの運営方法は厳しく規制されており、ここではそういう話ではない。但し、勝ちすぎた客を追い出すことはよくある。勝ちすぎていると言っても、単に運が良すぎるだけで追い出されることはあまり無いが、不正が疑われる場合などに出禁にするカジノはある。
そして、もう一方がマーケティングにおける利用である。ハイローラー(大金をかけるギャンブラー)やVIPを認識し、お金を出しそうな人に対して特別なサービスを有効化するというのはマーケティング上は有効にしても、顧客としては不快に思う人も多いだろう。
こうしたプライバシーや倫理に関係するような使い方がどこまで許されるかといったものはまだ議論の最中である。それでも今後も利用が進んでいくのは間違いない。
参考文献:UNLV, “Facing the Future of Casino Technology”, 4 Dec 2019
(注1)出玉操作とは、いわゆる当たりの出やすさを調整することである。今はやっているところは減ったと思われるが、パチンコ企業の社員がリクナビ2010でばらしてしまった例が記録されている。元の記事は即刻削除(画像キャプチャが残されている)されたので孫引きで申し訳ないが、「だからこの仕事が好き!一番うれしかったことにまつわるエピソード」について以下のように書かれている。
初めて企画を任されたイベントで、お店が満席になりました。
入社3年目のことですが、初めてイベントの企画を任されました。パチンコ店のイベントは、機種によるもの、曜日によるものなど、さまざまな企画があります。ただ共通しているのは、早い時間帯から出玉を良くし過ぎてもいけないし、一方であまり出玉が良くないと集客にはつながらないということ。どのようなタイミングで、どれくらいの出玉にするのか、そしてどれくらいの集客と売上・利益を見込むのか、力が試されます。また、売上が思うように伸びていない時期で、しかも初めてのイベント企画でしたから、正直不安になりました。イベント当日、満席となった店内を見渡したときの喜びは、今でも忘れられません。
パチンコ屋さんのネタバレ。「遠隔じゃなくて出玉(当たり確率)操作です。」
これをパチンコチェーンを運営する社員が書いたというのだから、すぐに削除されて当然である。