本稿は、人事コンサルティングや駐在員管理を手掛けるECA Internationalによる2020年のアジア太平洋地域における実質所得の成長率予測を概観するものである。
以下はECAがまとめた実質賃金成長率別に色分けした地図を再作成したものである。白色はデータが無い国である。このデータはECAの68ヶ国の307もの多国籍企業での給与動向調査2019/2020により、今年の昇給と来年の予測がまとめられたものである。
ECA Internationalによると、2020年の実質賃金成長率予測は上位20ヶ国のうち13ヶ国がアジア諸国であり、上位10ヶ国で見れば9ヶ国を占める。以下がそのデータを示しているが、5位タイのウクライナを除いて全てアジア諸国である。
2019年に最も実質賃金が上昇したと見られるのはサウジアラビアだが、2020年はコモディティ価格の安定化によるインフレ率上昇が実質賃金成長率を鈍化させると見られている。これにより、UAEやカタールなど中東全体がトップ10から脱落している。
インドは少し鈍化するものの5%超を維持し、米中貿易戦争により漁夫の利を得ているベトナムも5%に達する見込みである。ベトナムとタイはインフレ率が低く抑えられていることも実質賃金上昇の要因となっている。マレーシアは高インフレにより4.0%から2.9%に下落すると見られている。
中国は2019年からわずかに数値を落とすが、それでも3.6%の成長率を維持すると見られている。図では分からないが香港は1.4%と予想されており、これは2019年の1.0%を上回る数値である。
香港のデモでこちらも漁夫の利を得ているシンガポールは、高所得国にしては非常に高く、2019年は3.3%、2020年は3.0%の成長率が予測されている。
参考文献[1]:ECA International, “Workers in China set to see a real salary increase of 3.6% in 2020”, 11 Nov 2019
参考文献[3]:ECA International, “Real salary increases in Singapore set to be lower in 2020”, 11 Nov 2019