マレーシアはジョホールバル・シンガポール間の高速輸送システム(RTS)の建設を提案しているが、シンガポールは拒否している。これに対しマレーシアのマハティール首相は「当惑」を表明している。
マハティール首相は何故シンガポールが新しい橋を望まないか理解に苦しむ(Bernama)
- シンガポールはマレーシアから安価な水という「補助金」を長年享受しているにも関わらず、マレーシアが交通問題を解決するためにRTSを建設するという要求は拒否する
- 税関やイミグレの混雑緩和策を取ったとしても、RTSが無ければ週末やハリラヤ・プアサ等の混雑を解決することはできない
- 両国間の交渉を出来る限り早く再開できることを望んでいる
- 今年4月、両国の同意に基づいて仲裁を通じた解決を含め、水問題の友好的な解決を目指すことで合意
- 1962年の協定に基づき、1000ガロン当たり3 sen(0.03リンギット)で、ジョホール川から1日最大2.5億ガロンの原水を得ることが許可されている
解決の目処が立たない水問題
記事にもある通り、1962年の両国間の協定”The Johor River Water Agreement of 1961-1962″に基づき、シンガポールはマレーシアから水の供給を受けている。その価格が50年以上改定されていないが故に極めて格安である。
1,000ガロン当たり0.03リンギット(0.78円)で2.5億ガロン(約9.46億リットル)だと1日当たり僅か19万5,000円である。香港は中国から1日当たり4.8億ガロンを670億円で購入しているのから考えればタダみたいな価格である。
財政問題の解決を目指すマハティール首相は水価格の引き上げをシンガポールに要求している。シンガポールは2061年まで協定は有効の一点張りであり、2061年も価格改定は認めない姿勢を示している。
両国間にはもう一つ水協定があり、そちらは2011年に失効している。シンガポールはその間に貯水池を多く建設し、以前に比べれば水を自給できるようにはなったが。それでも1962年協定で可能な水供給枠はシンガポールの水需要の58%に達し、現時点ではシンガポールにとっても死活問題である。
関西人ならよく分かるだろうが、滋賀県民が京都府民や大阪府民に対して「琵琶湖の水止めるぞ」と冗談をよく言う。滋賀県の場合、本当に水を止めると府民の水供給が深刻な状態になる代わりに、滋賀県もすぐに水で溢れてしまうそうだ。なので滋賀県の場合は本当に止めることは実質的に不可能だが、マレーシアとシンガポールの場合は状況が全く異なる。
RTS(高速輸送システム)の建設要求に水を引き合いに出すマハティール首相
当サイトでも何度か取り上げているように、マレーシアのジョホールバルからシンガポールに行き来する人は多く、特にマレーシア側から通勤・通学で渡る人は非常に多い。しかし、深刻な渋滞が問題となっており、2020年予算でも渋滞緩和のための予算が計上されている。
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それでも根本的な解決にはならず、新たな橋をかけてRTS Linkという鉄道を運行させることがマレーシアの要求である。
しかし、シンガポール側から同意を得られないというのが問題となっている。シンガポールはシンガポールで、外国人の就労要件を厳しくするなど少しずつ外国人労働者の流入を絞る方向に進めているので、これ以上交通の便を良くしたくないという理由もある。
マハティール首相は、シンガポールの拒否に対し、水問題を引き合いに出す形で譲歩を狙っている。それでもシンガポールは水協定が切れる2061年までに水の完全自給を目指す計画を持っており、簡単には解決には至らないだろう。
参考文献
[1]Bernama, “Dr Mahathir can’t understand why Singapore doesn’t want new bridge”, 31 Oct 2019
[3]ASIA RISK「水問題とシンガポールの独立性」2018年7月5日
[4]ロイター「焦点:シンガポール「水問題」が再燃、マレーシアの債務削減で」2018年6月30日
[5]イーアイデム「滋賀県民の言う「琵琶湖の水を止めるで!」……止めるとむしろ大変なことに」2017年6月28日