ベルナマ紙などによると、10月3日にマレーシアのマハティール首相は、「国民が望むのであれば物品サービス税(GST:日本で言う消費税)の再導入を検討する」と語っている。筆者はこれが実現するのであればMy EG Services<MK:MYEG>が大きく上昇する可能性があると見込んでいる。
マレーシアでは元々2015年4月1日に6%のGSTが導入されていたが、2018年5月に政権交代によりマハティール政権が誕生したことで、かねてからの公約によりGSTが廃止され、昨年2018年9月1日にSST(売上税・サービス税)が導入された。
GSTとSSTの違いは名称はややこしいが違いの理解はそれほど難しくない。
GSTは日本の消費税などと同じで、取引が行われる度に課税され、消費税を預かった業者が各々で(既に払った消費税の差額を)納税する。
一方でSSTは、名前の通り「売上税」と「サービス税」に分かれている。
売上税に関しては製造者が卸売業社などに販売する過程にのみ課税され、製造業者だけが納税する。その後の取引では消費税がかからないので、店舗などで消費者が購入すれば、レシートの見た目では0%である。
もう一つのサービス税は中間生産物という概念が無いケースが多いので、逆に消費者がまとめて支払う(サービス提供者が納税)ことになる。
SSには「間接税システムの簡素化」があったが、「免税項目の増加(545品目→5,443項目)」という減税の目的もあったことで多くの課税業者が混乱したこともあって、すこぶる評判が悪いのが現状である。
また、 マレーシア東海岸鉄道(ECRL) の問題なども関係するが、財政支出などの問題がある一方でSSTによる実質的な減税など財源の問題もあり、消費税を復活すべきという要求が増えてきている中で行われたのが冒頭で紹介したマハティール首相の発言である。
筆者がMy EG Services(以下、MyEG)に注目するのは、そのサービスの性質である。MyEGは主に電子政府サービスを手掛けている。電子サービスとは、住民票の申請や納税、行政への申請処理などがオンラインで行える仕組みを指す。
MyEGは、住民票などの情報照会、道路税の納入、就労ビザの更新、警察への罰金納付や事故証明書の取得、MyKad(日本で言うマイナンバーカード)、倒産情報の検索サービスなど多数の電子政府サービスを取り扱っている。他にもザカート(イスラム教における救貧税)支払いや所得控除などマレーシアらしいサービスもある。
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そのMyEGはマハティール政権で大打撃を受けた企業でもある。以下は2017年8月以降のMyEGの株価であるが、2018年5月に大暴落しているのが分かる。これはまさにマハティール政権が誕生した時で、5月14日には1日で29.84%の値下がり、時価総額にして28億RM近く(当時のレートで700億円以上)が失われた。当時のマレーシア市場では3番目に下落幅が大きかった。
My EGは当時、GST納税の監視サービスの開発を進めていて思惑買いがあったところからのGST廃止なので余計に株価への影響は大きかった。
利益にも大きな影響が出ており、2018年6月期から影響が出始め、9月期にはマイナス決算を記録している。とは言え、その後海外進出の積極化やSST導入など売上を回復させる要因は多い。
それでもまだ株価はそれほど回復していない。ここでは取り上げないが財務状況も良好である。 中国経済は引き続きリスクだが、景気後退期に入れば新興国市場は相対的にアウトパフォームするケースが多い 。GSTが本格的に再検討されるようであれば期待できる。
参考文献[1]:MYEG公式サイト
参考文献[3]:ジェトロ「SSTが導入、2018年末までに課税対象見直し」2018年9月7日
参考文献[4]:The Edge Markets, “MYEG sees RM2.7b market capitalisation wiped out”, 14 May 2018