オーストラリアチェス連盟の元会長でガードナー・チェスの創設者であり、現在はサザンクイーンズランド大学後期博士課程に在籍するグレーム・ガードナー氏が、The Conversationにチェスとその学習効果についての (自身の未発表の研究2本を含む) 研究を整理している。
殆どの人はチェスをすることで「賢くなる」と考えているが、その証拠は明らかではない(The Conversation)
- 2016年のクイーンズランド州などでガードナー氏らのオンライン調査研究では、80%の人が「チェスの学習が教育的効果をもたらす」ことに強く同意し、87%が「チェスの学習が問題解決能力の養成に役立つ」ことに強く同意
- 2012年のニューヨークでの調査研究では、チェスや音楽を習得した子供は、そうでない子供よりも認知能力で僅かに高いパフォーマンスを示す(但しチェスでは統計的有意性が無し)
- 2017年の英国での研究では、チェスの指導が子供の数学・読解力・科学の試験の点数に何らかの影響を与えたという証拠が見つからず
- ガードナー氏らは2012年の研究と同様のアプローチ(チェスと音楽を学習した子供とそうでない子供)で、言語的・数値的・抽象的推論能力の変化について調査したが、高いパフォーマンスを示したものの統計的有意性は出ず
- これらの調査結果はチェスの学習が認知スキルに全く影響を与えないという意味ではない(多くの種類の思考と知能の尺度が存在し、それらについての研究が途上)
- 創造的思考、批判的思考、論理的思考、直感、論理的推論、体系的思考、戦略的思考、先見性、分析的思考、問題解決能力、集中力などチェスに関連する能力は様々
補足
今のところ「チェスをやらせればテストの点数が上がる」といったよく分からないロジックは成立していないという見方が妥当だろう。テストの点数を上げたいならば、チェスを練習するよりも教科書の勉強をした方が良いに決まっているからだ。
但し、何らかの能力に影響を与えているのではないかという著者の指摘にもうなづける。
ガードナー氏らの後者の研究では、今までにチェスや音楽のトレーニングを受けていない人に対し、4つの群(チェスを学ぶ学生、音楽を学ぶ学生、両方を学ぶ学生、どちらも学ばない学生)に分け、6ヶ月間に渡り毎週レッスンを行った後、PRMやAGATといった能力テストを実施している。
この能力テストの結果では、学習した群の方がやや点数が高いものの統計的有意性が見られていない。これは能力テストで測れる能力について向上が見られないだけで、計測していない他の能力については何も言えない。
要するに、何らかの能力が向上している可能性があるが、「どう賢くなるか」はよく分かっていないのである。