インドは過去6年間で平均7.2%もの実質経済成長率を記録している。一方で、統計・事業実施省に属する全国標本調査室(National Sample Survey Office : NSSO)の最新データ(まだ政府からは未承認)によると、過去6年間でインド経済の主要セクター(農業・製造業・サービス業)で大きく雇用を失い、6.1%もの失業率は45年振りの高さだという。
好景気なのに雇用が増えない理由は何か。インドで有名な作家でありコラムニストであるChetan Bhagat氏が、この3セクターの雇用問題について有益なコラムを書いている。
なぜインドの三大求人者が十分な雇用を生んでいないのか(The Times of India)
- インドの農業は、生産・流通・小売全てのレベルで十分に組織化されておらず規模の経済が働かないので収益性が低い
- Cargill社といった穀物メジャーも、インドで事業拡大する前に悪いイメージがついてしまった
- 1990年代に中国が行ったような製造業の爆発的成長は起こらなかった
- 2015年の土地収用法案(農地を収用して工場に転換する法案)に農家が大反対し、製造業革命が阻害された
- サービス業で十分に雇用を生んでいるのは、英語が巧く、都市部出身で、高学歴の家計に限られ、多くの卒業生はスキルが不十分(例:工学科卒業生の8割は雇用に不向き)
- 教育部門の不十分な規制、民間資本の教育投資のインセンティブの低さが質の低い労働者を生んでいるのが背景
補足
農業に規模の経済が働かず貧困から抜け出せないというのはわかりやすいが、その農地を収用して製造業に転換しようとする政策が進まなかったというのが根深い問題である。Chetan Bhagat氏はこのことについて、
(もし法案が可決されたとしても)実際に収用される土地は、インドの農地の1%にも満たなかったでしょう。それだけでインドに製造業革命をもたらしたかもしれないのです。(中略)皮肉にも、雇用の危機と叫んでいるのと同じ人が土地収用に反対して法案を通さなかったのです。
と単純な政策の失敗だけではないと指摘している。
労働者の質の低さに関しては教育の問題を指摘した上で、各セクターの問題を解決する根本的な改革が必要だと主張している。これは特定の政治家や政党を批判しても無意味で、国民が技術的に最先端であろうとし、自分自身に誠実であろうとし、改革の考え方を持たなければならないという心構えの重要性も示している。
参考文献
The Times of India, “Why our three biggest job creators are not creating enough jobs”, 7 Apr 2019