ロシアとの協調減産交渉決裂とサウジアラビアの増産以降による原油価格の暴落で、19日はあわやWTI原油先物価格は20ドル割れ寸前のところまでいった。しかし、米上院議員の圧力報道で反発し、更に先日の非常事態宣言を受けて戦略石油備蓄(SPR)を今後10年間最大限の水準で維持する方針を示した事で一時28ドル台まで回復し、現在は26ドル台で推移している。
REUTERS「米上院議員、原油価格競争巡りサウジとロシアに圧力」2020年3月19日
Blooomberg「米財務長官、最大200億ドル相当の原油購入を提案-戦略備蓄を満杯に」2020年3月20日
しかし、この反発は一時的なものであり、また売られる可能性が高いと筆者は考えている。
今のところサウジアラビアが増産方針を変えるつもりはなく、本気でロシアからシェアを奪い、米国のシェールオイル企業にダメージを与える方向性は変わらないと考えられる。原油価格の下落はサウジアラビア財政にとってもダメージはあるが、増産による薄利多売はサウジアラムコにとって以前からの予定通りである。
3月末でOPEC+の現在の協調減産が切れれば、他のOPEC諸国も価格競争に乗り出さざるを得ない。既にUAEやイラクは増産の意向を示しているし、イラクはOPEC+の臨時会合を求めたがサウジアラビアが減産に応じる可能性は低い。
日本経済新聞「産油国、増産でサウジに続く OPEC同士でも競争」2020年3月16日
REUTERS「イラク石油相、OPECプラス臨時会合の開催要請=書簡」2020年3月18日
ジャンク債とシェールオイル企業が結びついている点で、原油価格の低迷が続くことは米国債券市場が抱える爆弾を起爆させかねないので、トランプ大統領も真剣に取り組むとは思われるが、SPRによる価格上昇効果には疑問も多い。
ゴールドマンサックスのモデルではSPR拡大に向けた購入は最大でも日量50万バレル程度であり、国際原油市場の供給超過量の日量600万バレルには遠く及ばず、原油の押上げ効果は2ドル程度と推計している。
朝日新聞デジタル「米が戦略備蓄を積み増しても、原油30ドル割れは防げず=ゴールドマン」2020年3月16日
またブルームバーグのジュリアン・リー氏は、SPRで備蓄されている原油とテキサスのシェール層から採れる原油は硫黄濃度が異なり、SPRでのブレンドに適さないと指摘している。SPRの備蓄容量の2/3は硫黄含有量が0.5%を超えるサワー原油であるが、テキサスやルイジアナで採掘される原油はサワー原油だけでなく、硫黄濃度が低いスイート原油も多い。
硫黄濃度が低いスイート原油の方が脱硫コストが低いので高値がつくので、混ぜられない。SPRの原油のうち、スイート原油の約19%、サワー原油の16%だけが米国産であり、備蓄を増やすと言ってもその全てを米国産の原油で賄う事はできないので、シェールオイル企業を助ける効果は割り引いて考えなければならないと指摘されている。
Bloomberg, “Trump’s Plan to Stockpile Oil Plan Has a Rotten-Egg Smell”, 20 Mar 2020
また、サウジアラムコは4~5月の製油所稼働率を引き下げ、代わりに原油輸出に回すという情報が関係筋から出ている。サウジアラビアは国内での発電は天然ガスを優先的に使うなどの徹底ぶりである。
その意味でこの反発は大きくは進まないと考えられ、予定通り3月末に協調減産がなくなれば再度値下がりすると考えられる。当初のバンク・オブ・アメリカの見通しのように18~20ドルというのは売られすぎと思われるが、22~24ドル程度にまでは再度下がると見ている。但し、可能性としては低いが、何らかの協調減産合意がなされれば一気に40ドル程度まで反発するリスクはある。