要約
- 金融機関が利用するイスラム金融向けソフトウェアやツール市場が急成長している
- イスラム金融にブロックチェーンなどフィンテックを利用する事への注目度も高い
- 国や地域毎にイスラム法に対する解釈が異なるので、ノウハウの蓄積が必要
急成長するイスラム銀行向けソフトウェア市場(GULF TIMES)
- イスラム銀行向けソフトウェア市場は年平均13%の成長を続け、2021年に世界で7億ドルに達すると予想される
- 近年はOracleなどのグローバルベンダーの参入も増えている
- 地域ごとのイスラム法の解釈、言語の違い、AAOIFIの遵守など開発において考慮すべき問題も多い
イスラム銀行は少しずつブロックチェーンに力を入れ始めている』(Global Finance)
- サウジアラビアのイスラム開発銀行(IDB)はチュニジアのi-FinTech Solutionsと投資協定を締結
- ブロックチェーンベースのリアルタイム取引プラットフォームi-Tradeを発表
- 利息を禁止するイスラム銀行が従来型銀行向けのツールを利用できない問題をフィンテックで解決するのが狙い
ボーイングは航空機購入企業向けイスラム金融を検討(The National)
- ボーイングキャピタルは金融機関と提携して中東やアフリカの顧客向けの金融商品の開発を検討している
- ライバルのエアバスがドバイでシャーリア対応の航空機リースの為のアリフ・ファンド(Alif Fund)を設立したことがきっかけ
- どのような資金調達ツールになるかは現時点では未定
解説
イスラム教徒が多いGCC(湾岸協力会議)諸国やマレーシア、インドネシアは経済成長が著しく、利息の禁止などイスラム法を遵守する所謂「シャーリア適格」な金融商品の需要が大きく伸びている。
その分野はタカフル(イスラム保険)などエンドユーザー向けの金融商品だけでなく、金融機関が利用するソフトウェアやツールなどの開発への参入も活発であり、ブロックチェーンなどのフィンテックも注目されている。
一方で、一口にイスラム教と言えども国・地域ごとに有力な宗派は異なり、よく言われるスンニ派(スンナ派)とシーア派は大別に過ぎず、多数派であるスンニ派においても、実務的にはハナフィー学派・シャーフィイー学派・マーリク学派・ハンバル学派の四法源など細かい学派で考える必要がある。
例えば、イスラム法の中にマイシール(投機的な行為の禁止)という規定があるが、どこからを投機的とするかは学派によって異なる。先物取引などは殆どの学派で認められていないが、ブロックチェーンについてはイスラム法学者によって判断が分かれる。それ自体は技術に過ぎず投機とは無関係だが、投機対象の仮想通貨(暗号通貨)と結びつきやすいからだ。
そこで国ごとにシャーリア適格についての基準を決めたり、シャーリア適格かを判断するために金融機関がイスラム法学者をアドバイザーとして雇うといったこともイスラム教国家では主流になってきている。
ソフトウェア企業や航空機企業などはシャーリアについてのノウハウの蓄積が不十分と考えられるが、ボーイングのように金融機関と提携するなどして、今後ますます成長していくというのが大方の見方である。
参考文献
吉田悦章(2017)『グローバル・イスラーム金融論』ナカニシヤ出版
GULF TIMES, “Islamic banking software a rapidly growing market”
Global Finance, “Islamic Banking Slowly Warms To Blockchain”
The National, “Boeing Capital mulls Islamic financing for jet purchases”